みなさんは、ふだんどんな自己紹介をしていますか。
「なんとか高校の何年生です」とか「どこどこ会社で働いています」「どこどこ病院のドクターです」なんていう自己紹介がふつうですよね。私たちはふだん、学校や組織など、社会的立場を表明するかたちで自己紹介をします。いってみれば「社会科っぽい自己紹介」です。でも、もし「医学っぽい自己紹介」「保健体育っぽい自己紹介」をしてみたらどうなるでしょう?
■MEdit Labがお送りする、世にも“医療”な自己紹介
MEdit Labワークショップ「医学をみんなでゲームする」は、12のQに答えることで医学ゲームをつくっちゃうというカリキュラムです。(お題の詳しい内容は、こちらの記事で紹介しています)前半のカリキュラムでは、「ゲーム」の捉えなおしをしたり、ゲームにしたい医学テーマを調べたりして、医学と私とゲームとの関係をつくっていきました。でも、「医学」ってやっぱり難しそう……。そんな苦手意識を払拭すべく、医学と私を結びつけるのが今回ご紹介する「Q5.世にも“医療”な自己紹介「たくさんの私」自己紹介ワーク」なのです。
「今までのなかで一番難しかった」「出題されてから最初の1つが浮かぶまで3日くらいかかった」という声も上がったお題でしたが、見事に難問をクリアされた30名の参加者さんたち。この記事では、12の名回答を4つのグループに分けてご紹介していきます。
■名回答その1:臓器系
◯私は、クラスに活力を与える左心房です。 (ゆうりんちーさん)
◯私は、友達の悩みを吸収しすぎてパンパンになったリンパ節です。 (ほのふんくすさん)
◯私は、耳の骨みたいな繊細さが欲しい大腿骨です。(しろいるかさん)
どうです? 「私は左心房です!」なんて、このカリキュラムでなかったら絶対に出てこなかった自己紹介でしょう。しかも、心臓のなかでも、左心室の手前で肺から戻ってきた新鮮な血液をキャッチする左心房とはなかなか凝っています。
そして、おしゃべり病理医小倉先生も「医学の専門知識がたっぷり動員された名自己紹介!」と注目したのが、この「リンパ節」。医学の知識を動員することで「友達にとってのカウンセラー」が「リンパ節」というメタファー表現に変わりました。「繊細な耳の骨に憧れる大腿骨」というのもキャラが立っていて、ウメ子のお気に入りです。
■名回答その2:病気系
ほかにも、自分を「病気」になぞらえた自己紹介もありました。
◯私は、推しを見ると興奮がおさまらない熱中症です。 (さるぐさん)
◯私は、些細なことで傷つく骨粗鬆症の骨です。(りーちゃんさん)
◯私は、周りの人から性格が読み取れないと言われるレントゲンに写らない異常です。(わらびもちさん)
小倉先生も「うまい!」と座布団一枚差し出したのが、さるぐさんの「熱中症」。推し活の熱中症なら、大歓迎ですよね。りーちゃんさんは「なんてことない日常と医学を組み合わせた自己紹介を考えるうちに、自然と自分の性格が言語化されていく感じがして面白かった。」とのコメント。「私はちょっと傷つきやすいです」ということも、「心が骨粗鬆症だからさ」と言い換えたら、一気にユーモラスに。「レントゲンに写らない異常」は、小倉先生も「本当はあるはずの病変が写っていない漆黒のレントゲン画像がイメージされて、とてもミステリアスな雰囲気に。わらびもちさんのつかみどころない魅力が存分に表現された名作」と絶賛。
■名回答その3:医療器具系
人体と自分を結びつけるだけでなく、「医療器具」との類似点を見つけるご回答も。
◯私は、誰かに見られると数値が爆上がりする人間血圧計です。(りーさん)
◯私は、耳が聞こえない祖母にとって補聴器です。(ふくこさん)
◯私は、友達が落ち込んでるとき、電気ショックで復活させる歩くAEDです。(len520309さん)
「医療っぽい用語を日常や心情に当てはめると、思いがけない角度から“新しい自分”を発見できる」。このお題の面白さを、りーさんはこう語ってくれました。まさにそうなんです。おばあさんにとっての補聴器、友達にとってのAED。自分をそうやって見立ててみることで、ふだん自分がやっていることも、新しい角度から光があたる感じがしますよね。
■回答その4:ミクロ系
まだまだあります、最後は、すっごく小さなものに自分を託した想像力豊かな回答を紹介しましょう。
◯私は、親友のアデニンといつも一緒にいるチミンです。(鉄紺さん)
◯私は、毎日塾まで爆速で自転車で駆け抜けるアドレナリンです。 (みうさん)
◯僕は、いろんなこと吸収して、エネルギーにするミトコンドリアです。(のどぐろさん)
まさかのRNAの塩基を持ち出してくれたのが、鉄紺さん。保健体育や医学だけでなく、生物の知識も総動員ですね。「仲良しだね」って言われたときに、「うちら、アデニンとチミンだから」なんて言えたらかっこよすぎます。自転車で爆走しているときに「私はアドレナリンっぽい!」って思ったら、おうちは副腎に、道路は血管に見えてくるかも。「この授業も、この体験も、ぜんぶ生きるエネルギーに変換するのだ!」とミトコンドリア風に考えるときも、世界の見え方がすこし変わりますよね。
■見立てると、世界が変わる
ここまで、12名のみなさんの名回答をご紹介しました。「医学っぽい」とひとことで言っても、さまざまな見方があるのがわかりますよね。そして、こうやって思いもよらないモノに自分を見立てることによって、自分をとりまく世界の見方さえ変わってしまう。これこそが、MEdit Labで大事にしている「Edit(編集)」の力です。
7月から始まったMEdit Labワークショップ「医学をみんなでゲームする」は、いよいよ後半戦を迎えました。ここから、一人ひとりが作ろうとしているゲームのメカニックな部分を詰めていきます。どんなゲームがお目見えするのか、どうぞお楽しみに。
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投稿者プロフィール

- 聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。