ゴールデンウィーク最終日、「明日からまた学校か……」と思った瞬間、体がずん、と重くなる。あの感じ、わかりますか?
「五月病」って、正式な病名じゃないんです。新しい環境にがんばってついていこうとして、心と体がだんだん追いつかなくなってきた、そんな状態のこと。「軽い適応障害」みたいなものですね。新生活、最初は気合いが入って何でもできそうな気がする。でも気づかないうちに、疲れているのに頑張り続けてしまうモードに突入していたりします。GW中にちょっとゆるんで、連休明けにバッテリー切れ。そんなイメージです。
GW中はつい夜更かしして、朝寝坊が続く。平日と休日で寝る時間や起きる時間がずれてくると、体の中の時計(体内時計)と、学校や社会のスケジュールに時差が生まれます。これを「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」と呼びます。最近の世界中の研究をまとめた調査では、このずれが2時間を超える若者は、気持ちが落ち込みやすくなる確率が約1.4〜1.9倍になるそうです。背景には、ストレスホルモンのリズムまで揺れてしまうことが関わっているみたい。GW前後の睡眠リズム、まさにこれです。
◆二千年前の医学書が描く「春のからだ」
二千年前の中国の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』には、春の章にこんな一節があります。
「春の三か月は、少し夜更かし気味でも、朝はちゃんと起きて、庭をゆったり歩き、髪をほどき、体をゆるめて、心をのびやかにしなさい。これに逆らうと、肝(かん)を傷める」
東洋医学でいう「肝」は、気の流れや、感情をうまくコントロールする働きのこと。キーワードは、ゆったり・ゆるめる・のびやかに。古典は、春は本来「気をのびやかに伸ばす」ことが大事な季節だ、と言っているわけです。
日本の4月って、新しい制服を着て、時間割に追われて、先輩や先生にも気を遣う毎日。古典の言う「ゆるめる」とは、ほぼ正反対の暮らしなんですね。
では、なぜ春は「のびやかに伸ばす」ことが大事なのか。古典はこう答えます。「春は『発陳(はっちん)』の季節だから」。発陳とは、冬のあいだ地中にしまっていたエネルギーが、芽を出して外へと伸びていく動きのこと。植物が地上に芽を出すように、わたしたちの体の中でも何かが静かに動き出している。だから外側のスケジュールでギュッと固めちゃうと、内側のその動きを邪魔してしまうんです。
しかもこの発陳、5月になっていきなり始まるわけじゃない。冬のあいだ深く眠っていたものが、ふっと動き出す日、それが立春(2月のはじめ頃)。じつはそのころから、わたしたちの体の中でも発陳はもう静かに始まっているんです。
2月からこっそり動き始めていた発陳を、4月の頑張りすぎがぎゅっと押さえ込もうとする。行き場を失った力は、ダムみたいに溜まっていって、5月になってあふれ出す。そう読むと、5月のあのだるさは、怠けでも弱さでもなく、体からのサインに見えてきます。
◆東と西、同じあたりを指している
最新研究の言う「ソーシャルジェットラグでストレスホルモンが乱れる」と、古典の言う「春の気に逆らうと肝が弱る」。別々の場所から生まれた言葉ですが、並べてみると、不思議と同じあたりを指しているように見える瞬間があるんです。
漢方では、気の流れをほぐすお薬「加味逍遙散(かみしょうようさん)」がよく使われます。そしてもう一つ、今日からできる「処方」が、朝5〜10分の散歩。これ、じつは『黄帝内経』に書かれている「庭をゆったり歩きなさい」そのもの。朝の光って、ずれた体内時計をリセットしてくれる特効薬でもあるんですよ。
ちょっとイライラしたり、食欲が落ちたり、夜の眠りが浅くなったり。そんなときは、身体が「ハッチンしたい」と言っているのかもしれません。机から離れてすこし歩いたり、肩の力を抜いたり。すこし酸っぱいものを口にするのもいいですよ。漢方では昔から「酸味は肝を整える」と言われていて、春のからだにすっとなじみます。体の声を聞いてあげるだけで、けっこう変わってくるものです。
GW明けのあの重さ、悪いものじゃないのかもしれません。体が「もう少しゆっくり春をやらせて」と言う声、聴こえそうですか?
立春のころから始まっている自分の中の小さな動きに、毎春「あ、ハッチンが来たな」と気づける。それだけで、4月の踏み込みすぎを少し手前で止められる気がしています。
この春、少しだけ、自分の中のハッチンに付き合ってみませんか。
◆バックナンバー
◆引用文献
[1] Lu YA, Tsai PS. Associations of social jetlag with depression and anxiety in adolescents and young people: a systematic review and meta-analysis. Depress Anxiety. 2026;2026:5542425. doi:10.1155/da/5542425. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12811408/
[2] Sun S, Yang Y, Yu F, et al. Social jetlag and depressive symptoms among young people: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry. 2025;25:664. doi:10.1186/s12888-025-07066-x. https://link.springer.com/article/10.1186/s12888-025-07066-x
[3] Luo J, Yang J, Dai T, et al. Non-linear relationship between social jetlag and depressive symptoms among Chinese college students. Sci Rep. 2025;15(1):18317. doi:10.1038/s41598-025-03371-3. https://www.nature.com/articles/s41598-025-03371-3
[4] 黄帝内経素問・四気調神大論第二. 漢〜後漢期成立(通行本).
投稿者プロフィール

- 生まれも育ちも石川県。地域医療に情熱を燃やす若き総合診療医。中国医学にも詳しく、趣味は神社巡りとマルチな好奇心が原動力。東西を結ぶ“エディットドクター”になるべく、編集工学者、松岡正剛氏に師事(髭はまだ早いぞと松岡さんに諭されている)。
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