前回の「レッツMEdit Q!」コラムの中で、イシス編集学校とのコラボ企画「お医者さんに“読ませたい”3冊」のご紹介をしました。今日は、その中で最も取り上げたい3冊セットをクローズアップしたいと思います。
公益財団法人職員である北條玲子さんは、フラメンコダンサーでもあります♪ ふだんお会いすると大和撫子という言葉がぴったりの美人さんなのですが、うちにはダンサー気質のあつ~い情熱を沸々とたぎらせている北條さん。そんな北條さんがお医者さんに読ませたい本のテーマとしてとりあげたのが「ハンセン病」です。
高校生のみなさんは、ハンセン病をご存じでしょうか。今や医学生の中にもハンセン病について知らないひとが増えているのではないかと思うくらい、医学部の授業の中でも扱う機会が本当に少なくなりましたし、ニュースなどで取り上げられることもなくなりました。
ハンセン病は、その昔、「らい病」ともいわれ、感染症として隔離の対象となっていました。重い皮膚症状を引き起こし、顔面を含め身体の変形を伴うことから、日本に限らず西洋においても「悪魔の仕業じゃないか」「前世で悪いことをしたからそのたたりではないか」というような差別的な見方をされてきました。
コロナ禍を経験したみなさんは、感染症が差別的感情を引き起こすことを身をもって知っていると思います。感染症や戦争、そして災害…。歴史は繰り返されます。その中から少しでも教訓を得て、賢い人間になれるよう、平和を守っていけるよう、ハンセン病の歴史から学ぶことも少なくありません。興味を持った方は、北條さんがお勧めしてくださった3冊を手に取ってみてください。
そむけたる医師の目をにくみつつうべなひ難きこころ昂る(『白描』明石海人)
『ハンセン病を生きて きみたちに伝えたいこと』の伊波敏男は、高校で学びたい一心で、施設を脱走した。すでにハンセン病は、適正な治療をすれば伝染を恐れる必要がないにも関わらず、日本では隔離政策が続けられた。
社会から隔絶された著者は、施設を脱走し入学した高校の図書館のたくさんの本を読むことで、心を支え、癩者を拒んだ社会を見据えた。医師の中にすら、ハンセン病の隔離を訴え続ける者はおり、忌避の心は根深かったのである。差別によって壊された心は誰が癒すのであろうか。
『フラジャイル』には、ハンセン病患者がどのように社会から、この世の果てに押し込まれたか、その過程が浮き彫りにされている。社会が差別の病を作ったのだ。
歌人、明石海人は、朽ちゆく体で歌を詠み続けた。明晰な思考に磨き抜かれた『明石海人歌集』は心に迫る。冒頭に掲げた歌は診断の日の苦悩だ。しかし、歌を作り続け、癩は天啓であると病を受け入れた。生きるとは表象することであり、社会と繋がることである。治療は体だけではなく、社会と繋がることができるよう、医師と患者の相互編集が求められている。さくら花かつ散る今日の夕ぐれを幾世の底より鐘の鳴りくる(明石海人)
Info
⊕アイキャッチ画像⊕
∈『ハンセン病を生きて きみたちに伝えたいこと』伊波敏男/岩波ジュニア新書
∈『フラジャイル』松岡正剛/ちくま学芸文庫
∈『明石海人歌集』明石海人/岩波文庫
投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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