2024年8月31日。ジョギング程度の速度で西日本あたりをウロウロする台風10号の動きが気になる中、MEdit Labメンバーは、茨城県の茗渓学園に行ってきました!
茗渓学園は、つくばエキスプレスの終点、つくば駅が最寄り駅。近くにはそう!筑波大学やNASAがあり、生徒さんのご両親は筑波大学やNASAで働いている方が多いのだとか。宇宙飛行士の星出彰彦さんが学園のOBです。
今回も湘南白百合学園でのMEdit授業と同様、研修医の西口采花さんと医学部2年生の石井菜々子さんも一緒。神奈川から茨城へとプチ旅行を楽しむMEdit Labメンバーです。ただプチ旅行といっても、秋葉原から電車一本でつくば駅に着くので、順天堂大学医学部の本丸である、本郷・お茶の水キャンパスからもとてもアクセスが良いのでした。
茗渓学園の生徒さんは、これまでMEdit授業で伺った学校の中でも一、二を争う元気さ! バナナの病理診断を体感するゲーム「バナオーマ」がはじまると各グループから活発な議論の声が響き、教室が一気に暑くなりました。
今年度、何度も繰り返したバナナの病理診断講義。MEditメンバーも回を重ねるごとに講義の内容やゲームの進め方などマイナーチェンジしながら、私たち自身も「病理診断っていったい何か」ということを繰り返し考察してきました。さすがにだいぶ回を重ねてきただけに、これ以上驚くこともないだろうと思っていたら、そんなことないんですね。言語化能力のとっても高い茗渓学園の生徒さんの発表を受けて、また、考察が深まったのでした。
■バナナについての知識と経験
「バナオーマ」のゲームで遊んだ後、授業ではさらにバナナの診断基準を考えてもらうというワークに挑戦してもらいます。未熟・適熟・過熟と3段階に分けるための基準を設けてもらうのですが、ふつうは、色や形や香りなど、バナナそれぞれの熟し具合を、実際のバナナを手にしてあれこれ話し合うことからはじめます。
しかし、茗渓学園の生徒さんのあるグループは、バナナの観察に入る前にあることを行いました。それは、「定義づけ」です。適熟とは、「栄養価が保たれた状態で美味しく食べることのできる熟し具合」というように、若干、医学(というか栄養学?)的な観点で、適熟とは何かということを定義してくれました。適しているってどういうこと? 熟すってどういうこと? それはバナナにあてはめたらどうなるの? そういう順番で、丁寧に考察してくれたのでした。
そこで、MEditメンバーが再認識したことがあります。それは、バナナのことを“あらかじめ”知っていなければ、バナナの病理診断はできないんだな、ということ。そして、「知る」というのは、知識と経験が合わさったものであるということ。バナナを食べるという経験とバナナの栄養価などについての知識。人間は経験とそれに付随する知識に基づいて様々なことをジャッジしているんですね。
■バナナの診断基準、chatGPTが挑戦
そうなってくると気になってくるのが、人工知能の議論で登場する「記号接地問題」です。記号接地問題とは、人工知能の「知」にまつわる深い問題で、身体を持っていない人工知能は、統計的な処理だけで言葉を扱っていて、言葉自体の意味を理解していないのだ、ということ。身体を持っていなければ、単語一つひとつに経験や感覚や感動などを対応づけることはできない。つまり身体と言葉が接地していない、知識が経験によって裏づけされていない、ということです。この問題は、知能ってなんだ?という本質的な問いを私たちに投げかけますし、なんとなく人間に似ているようなことを考えているかのような人工知能と人間の根本的な違いを指摘するものです。
たしかに私たちがバナナの病理診断に向かう時は、自らのバナナにまつわる経験に基づいて考察しています。お腹が空いて食べた時にひときわ美味しかったこと、台所の一角に放置された黒いバナナ、猿やゴリラがバナナを食べている様子、バナナの栄養について家庭科で教わったこと等々…。バナナの診断基準をつくろうと考察するときは、参加者それぞれが無意識であってもそれぞれのこれまでのバナナにまつわる人生すべてが関わってきます。かなり大げさですが、人間は身体ごと考察しているわけです。
では、人工知能に、バナナの病理診断は可能なのでしょうか?気になって、chat GPTに聞いてみました。驚きの結果をご覧に入れましょう。
おしゃべり病理医 “バナナを未熟、適熟、過熟の3つに分ける診断基準を作ってください”
Chat GPTの回答
バナナの熟度を判別するための診断基準を以下のように分けることができます:
1. 未熟なバナナ
皮の色: 緑色または緑がかっている。
皮の質感: 皮が硬く、つるつるしている。少し光沢があることも。
香り: ほとんど香りがしない、または微かな青臭さが感じられる。
触感: 触ると硬い。押してもあまり凹まない。
味: 酸味が強く、甘味が少ない。食感がシャリシャリしている。
2. 食べ頃のバナナ
皮の色: 黄色で、黒い斑点が少し出てくる。全体的に均一な黄色をしている。
皮の質感: 皮がしなやかで、やや柔らかく感じる。
香り: 甘い香りがしっかりと漂う。
触感: 軽く押すと少し凹むが、形はしっかりしている。
味: 甘味が強く、酸味が少ない。滑らかでクリーミーな食感。
3. 熟しすぎたバナナ
皮の色: 完全に黒くなるか、黒い斑点が多く広がっている。
皮の質感: 皮が非常に柔らかく、しわが多い。皮が簡単に剥ける。
香り: 強い甘い香りがする。熟成が進みすぎると発酵臭が感じられることも。
触感: 触ると柔らかく、押すと容易に凹む。
味: 甘味が非常に強く、時には過剰な発酵による酸味やアルコール風味が感じられる。食感が非常に柔らかく、ややねばつくこともある。この基準に従ってバナナを分類することで、用途や好みに応じて最適な熟度のバナナを選ぶことができます。
や、やるな…Chat GPT…。まるでバナナを食べたり触ったり香りを嗅いだことのあるかのような回答ではないですか。体験を経ての考察であるかのごとく回答できてしまうのが今のChat GPT。改めて衝撃を受けました。
みなさんはこのChat GPTの回答を見て、どんな感想を持つでしょうか。
私たち人間はなんといっても正真正銘の身体を持っていて、身体を通した感覚をあわせて物事を経験します。ですから、自分の感覚、感性、そして、想像力を鍛えていくことが、これからもっと重要になってくるのだろうなと思います。
バナナの病理診断にまつわるMEdit授業。人間の思考とは何か、ということまで考えさせられる題材で、授業を開催しているMEditメンバーが一番、勉強になっているかもしれません。