ミカタの東洋医学
ミカタの東洋医学 COLUMN
2024.10.10
2024.10.10
天癸(てんき)が転機?
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養命酒のCMで「女性は7の倍数、男性は8の倍数の年齢の時に、体調に変わり目が訪れる」というフレーズを聞いたことはありますか。高校生や大学生に尋ねると、「わかりません」とだいたい言います。わたしも年を取ったと実感する瞬間です(笑)。

◆老化とテンキ?

西洋医学が老化のメカニズムを分子レベルで解明しつつある一方、東洋医学は数千年にわたり、老化を全身のバランスの変化として捉えてきました。特に注目すべきは「腎」の働きです。

東洋医学における腎は、単なる臓器ではなく、生命の根源を司る重要な存在です。腎は「先天の精」を蓄え、これが生命力の源とされます。この先天の精は、両親から受け継いだ生命エネルギーであり、誕生時に最も豊かで、年齢とともに徐々に減少していくと考えられています。

先天の精のことを別名「天癸(てんき)」ともいいます。「黄帝内経(こうていだいけい)」という二千年前の医学書には、「女子、二七(2×7の倍数=14歳)にして天癸至り、任脈(にんみゃく)通ず」とあります。「天癸至る」とは初潮のことで、「任脈」とは子宮に通じる気の流れの道のことです。つまり、女性は十四歳で初潮がきて妊娠できるようになると言っているのです。

生命力の源である天癸は思春期に現れ、生殖機能や二次性徴を促す一方で、その衰退が老化の始まりを示すとされます。女性では閉経、男性では精力の減退がその兆候です。興味深いことに、これは西洋医学で言う性ホルモンの変化と重なる部分が多くあります。詳しくは黄帝内経の続きを見てみてください。

また、腎は骨や歯、髄(脳や脊髄)とも密接に関連していると考えられています。これは、西洋医学で観察される年齢に伴って骨が脆(もろ)くなることや記憶力の低下などにも合致しますね。

◆東洋 v.s. 西洋医学、老化のミカタ

東洋医学では、老化は避けられないものの、その進行を緩やかにすることは可能だと考えます。養生法として、当たり前なことかもしれませんが適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠が推奨されます。特に、腎を養う食材(黒豆、クルミ、ゴマなど)の摂取や、過労を避けることが重視されます。

私は、自分の身体が両親やご先祖から受け取った“先天の精”をもとに出来がっていることにありがたみを感じます。東洋医学の老いの考え方を参考にすれば、みなさんにも自分の身体を大切にしようという養生への気持ちが芽生えるかもしれません。

西洋医学と東洋医学は、それぞれ異なる視点から老化のプロセスを理解しようとしています。小倉先生の「遊刊エディスト」の記事に詳しく紹介されているように西洋医学は分子レベルでのメカニズム解明に力を入れる一方、東洋医学は身体全体のバランスと生命エネルギーの移り変わりに注目します。東洋医学と西洋医学の両方の視点から、私たち人間が避けて通ることのできない老化現象を捉え直すことで、みなさんも素敵に年を取ることができると思いますし、新たな医療の在り方や生命観がつくられていくかもしれませんね。

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投稿者プロフィール

華岡 晃生
華岡 晃生
生まれも育ちも石川県。地域医療に情熱を燃やす若き総合診療医。中国医学にも詳しく、趣味は神社巡りとマルチな好奇心が原動力。東西を結ぶ“エディットドクター”になるべく、編集工学者、松岡正剛氏に師事(髭はまだ早いぞと松岡さんに諭されている)。