文系ウメ子ちゃんねる
文系ウメ子ちゃんねる COLUMN
2024.10.14
2024.10.14
日常生活のなかの「ゲームっぽいもの」7選。荷造り、乗り換え、親へのおねだり…医療現場もゲームっぽい?
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お題に答えるだけでゲームが作れる!
ゲームを作りながら、医学にも親しむ!
ついでに、学び方も身についちゃう!

こんな“一石三鳥”のワークショップが、いま進行中です。そう、MEdit Labがお送りする「医学をみんなでゲームする」のWEBワーク。

 

■「わける/あつめる」から「つなぐ/かさねる」へ

WEBワークは「12のお題」で構成されています。12のお題は、4つのMEthodに分かれています。

MEthod1:わける/あつめる ー情報の見方  (Q1〜Q3)
MEthod2:つなぐ/かさねる ー情報の関係づけ(Q4〜Q6)
MEthod3:しくむ/みたてる ー情報のシステム化(Q7〜Q9)
MEthod4:きめる/つたえる ー情報の表現(Q10〜Q12)

なぜ、4段階に分けるかというと……?
そう、私たちが何かを考えたり、文章を書いたり、話したりするときにアタマに起こっている「編集(Edit)」のプロセスが4段階に分節できるからでした。以前の記事でもご紹介しましたね。

WEBワークでも、まず最初の3題は「わけるあつめる」のステージ。ここでは、どんなテーマを扱うかを決めるために、さまざまな見方から情報を集めるワークが中心でした。
続く3題は「つなぐかさねる」がテーマ。たとえばQ4では、「世の中にあるゲームっぽいもの」を探すというお題でした。これは、「一見ゲームとは無関係なもの」と「ゲーム」をつなぐことによって、物事のあらたな側面を見出すワークです。

お題を特別にチラ見せいたしましょう。みなさんなら、何を思い浮かべますか?

Q4. 世の中のゲームっぽいもの?「らしさ」ワーク(抜粋)

まずは、みなさんが考えるゲームのおおまかな特徴をいくつかあげてください。
例えば、勝ち負けが決まることや時間制限があることなどがゲームの特徴のひとつとしてあげられるでしょうか。
そのうえで、世の中にある「ゲームではないけれど意外とゲームっぽいぞ!」というものを5つくらいあげ、その理由を簡単に書いてみてください。

■荷造り、乗り換え、親へのおねだり…!?

参加者さんからは、こんな回答が届きました。

★「旅行に行くための荷造り」…旅先で必要なものを、頭を使いながら無駄なく詰め込むところが、ゲームのテトリスのようで面白い。(朧さん)

★「新宿駅での乗り換え」…新宿駅という色んなホームへ繋ぐ沢山の通路が密集しているダンジョンを、乗り換え電車が発車するまでに辿り着かなければいけないところ。(朧さん)

いやあ、おもしろいですねえ。荷造りはテトリス。たしかに。新宿ダンジョンの乗り換えも、RPGの主人公気分になればけっこう楽しく攻略できるかも!(病理医しんしん先生も、この回答に感心しておられました。「新宿駅」と、非常に具体的な場面に限定していたところに技を感じたとか)

ほかにも、こんな回答が。

★「ビュッフェ形式の食事」…自分の食べたいものを入れながら、どれだけ栄養が偏らないようにするかが得点で出たらゲームっぽいなと思ったから。(ズッキーニさん)

★「食事」…必要な栄養素をどう得るか、さらに満足感や好みを充足させられるか、そしてお金が足りているかなどいろんなリソースをマネジメントする必要がある(いしがみさん)

私たちが、365日欠かさずおこなう「食事」にもゲームっぽさが見つかりました。じつは、この回答、ひとつは無数のゲームを世に送り出しているプロのゲームクリエイターのもの。もうひとつは、高校生の参加者さんによるもの。プロ・アマの垣根を超えて、年齢の垣根も超えて、おなじ課題に取り組んで、たがいに触発しあうのもMEdit Labワークショップの特徴です。

変わり種でいえば、こんなものも。

★「知らない人と話すとき」… 頭の中の選択肢から、どう発言すれば相手が傷つかないか考えながら話す。(ドータクンさん)

★「親におねだり」…両親をどのようにしておねだりし、説得すればいいのか、一回きり?のゲーム(たくとさん)

対人コミュニケーションも、家族内の交渉事も、たしかにゲームっぽい!

■ゲームっぽいものの共通点?

こうやって「ゲームじゃないけどゲームっぽいもの」を見てみると、それぞれに共通点が見えてきますね。
たとえば、回答を見ていてウメ子が発見した共通点は「制限がある」ということ。荷造りだって「スーツケーツの容量」という制限があるから、そのなかで試行錯誤するのがゲームっぽいわけですよね。駅の乗り換えにも時間制限があるし、ビュッフェも「胃袋の容量」という上限があるなかで「栄養バランスを満たす」という目標を達成しようとするからこそゲームに見えてくる。親へのおねだりも、一回ミスったらしばらくプレイできないという縛りがあるからこそ真剣勝負になりますね。

……とここまで考えて、不思議な気分になりました。世の中的に「ゲーム」といえば、「お遊び」とか「ふざけたもの」とか「子どもっぽい」とか「勉強の邪魔になること」とかマイナスのイメージをもたれがちです。(以前のMEdit Labコラムでも、「ゲームって子どもっぽくありません?」とエライ人に突っ込まれた話を小倉先生が書いていましたね)

でも、いざ、「ゲームっぽいもの」を考えてみると、「取るに足らないもの」とは思えませんよね。私たちが「過不足のない荷物をもっていこう」とか「ちゃんと栄養バランスも考えよう」って真剣になればなるほど、その行為がゲームっぽく見えてくるようなのです。

医療だってゲームなのだ

じつは、こんな回答も寄せられました。ワークショップには、プロのゲームクリエイターだけでなく、ガチの医療従事者もおられるんです。

★「原発不明がんの診断(専門的過ぎてすみません)」…HE染色の組織形態と免疫組織化学の結果を組み合わせて原発巣を推定していく。「ここが原発」と推定したところに本当にあったら勝ち(Pathokoさん)

ほ、ほう……! ウメ子は専門的なことはわかりませんが、「最初にがんが出てきたのはどの臓器か」というのがわからない状態で、さまざまなデータをもとに、最初にがんが出てきた臓器を特定していく、ということなのだと推察。

こちら、病理医・小倉先生が「むっっっちゃ、わかります!」と大きな共感を寄せていたんです。

小倉先生からのコメント:「おぐらも病理医なので、原発不明がんの診断含め、難解な症例に出会うと、ものすごく血が騒いでしまい、これだという診断に行き着いた時は『よっしゃー!』と叫びたいくらい。たしかに診断は、超真剣勝負のゲームですね。」

たくさん勉強して、真剣に患者さんと向き合っているドクター。そのドクターが日々おこなう診断も「ゲームっぽい」わけなんです。

2023年度のワークショップのときには、パリ五輪にもスポーツドクターとして関わった小松孝行先生がふだんから『ゲーム感覚』をもって仕事をしていますと話してくださいました。 ゲームは、想像以上に、医療の現場とも結びついているんです。

■ゲームをつくるとは、世界をつくること?

もっといえば、「ゲームっぽい」のは医療の現場だけではありません。言ってみれば、あらゆるところに「ゲーム」は見つかります。小倉先生が「ゲームの本質をばっちり掴んでいる!」と驚いた回答がこちら。

★「読書・演劇」…別の誰かになれるところ。自分でない誰かとしてその世界を味わえるところ。(こまるさん)

★「俳句・短歌」…ルール(制限)があって少し窮屈だけれど、その分自由に遊べるところ。プレイヤーの人柄・物事への考えも現れやすいところ。(こまるさん)

一見すると、本を読んだり、俳句や短歌を詠んだりすることは「ゲーム」とは程遠いように感じます。でも、小倉先生はこうコメントしました。

ゲームをつくるというのは一つの世界をつくること。ゲームで遊んでいるプレイヤーはそのゲーム世界の住人となってその世界のルールに従うことが求められますね。それは別の見方で表現するならば、別の誰かになれるということです」

そうなのです。ゲームで遊ぶとは、ふだんの日常生活とはちょっと違う世界に生きてみる、ということなんです。私たちがゲームに一喜一憂できるのは、ゲームでの勝ち負けが、日常生活には影響しないからです。(トランプの大貧民で負けたら自分の銀行口座がゼロになるとか、ドッジボールで負けたら奴隷としてこき使われるとかとかそんな世界だったら、トランプもドッジボールもまったく楽しくありませんよね)

ゲームのなかでは、ふだんの「私」とはちょっと違う「私」になれる。言い換えれば、ゲームをつくるということは、「世界をつくる」ということなんです。じゃあ、その「世界」をどうやってつくっていくのか……?ということは、続きのお題で考えていきます。

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投稿者プロフィール

梅澤奈央
梅澤奈央
聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。