今日ご紹介するのは、ノンフィクション・ライター、佐々涼子さんの『エンド・オブ・ライフ』です。前回ご紹介した本に引き続き、本書も2020年のノンフィクション本大賞を受賞しており、以前、「おしゃべり病理医のMEdit Lab」の中の「コトバワーク」という教材の中でも、中高生に絶対読んでほしい医学にまつわる3冊のうちの1冊に選ばせていただきました。
私は、この『エンド・オブ・ライフ』で佐々さんの本と出会い、その真摯な取材姿勢に裏打ちされた素晴らしい内容に感激し、その後、間髪入れずに3.11後の日本製紙石巻工場の復興を描いた『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』(早川書房)や『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)を一気読みしました。いずれもみなさんに読んでいただきたい本です。
大学病院はいわゆる「急性期医療」と呼ばれるように、患者さんの救命と病気の完治を第一に診療している場であり、私も病理医としてその役目を全うしようと日々診療にあたっています。ですから、患者さんが近づいてくる死を受容し、安らかに人生の最後を過ごすことをサポートする終末期医療とは遠い場にいます。でも、医療従事者のひとりとして、また、生きている間に大切な人を看取り、自分自身も必ず死ぬ運命にあるひとりの人間として、人々の最期の物語に触れる機会を持つことは大切だと思っています。
本書『エンド・オブ・ライフ』は、まさに多様な人生観と境遇を持った方々の命の閉じ方が描かれています。佐々さんは、この本の完成に7年を要したと言われています。その取材中、看取る側の看護師さんが末期がんを宣告されたり、ご自身もお母さまのお看取りを経験したりしています。ご自身が当事者にも観察者にもなりながら様々な人生の閉じ方が綴じられている。これまでの佐々さんの本の中でも、よりノンフィクションの凄みと切実さが感じられる作品です。
実は、佐々さんは現在、悪性の脳腫瘍で闘病中とのこと。新聞の記事で知ってショックでした。ノンフィクション・ライターとして、数多くの人々の人生に触れてきた佐々さんですから、闘病中も充実した日々を送られているだろうと信じています。佐々さんにエールと感謝を込めて、まだ未読の本を楽しく読ませていただこうと思っています。
投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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