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文系ウメ子ちゃんねる COLUMN
2025.06.19
2025.06.19
伝説的ゲーム作家・米光一成さんに聞いた!ゲーム制作の知られざる舞台裏
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MEdit Labは、専門的に思われがちな「医学」をもっと身近に親しんでもらうべく活動しています。そのひとつが「医学をみんなでゲームする」というワークショップ。じつは、このワークショップには、伝説的なゲーム作家・米光一成さんが参加者としてひょっこり来てくださったのでした。

近著『ゲーム作家の全思考』(米光一成著、大和書房)は、ゲームづくりのみならず、文章を書いたり、企画をしたり、あらゆる創作の心構えを教えてくれる1冊。出版を記念して、米光さんに独占インタビューを敢行。ここでしか聞けないプロの創作論を、順天堂大学病理医・小倉加奈子が聞き出しました。

▲MEdit Lab 2024年度ワークショップにて、壇上で交わす米光さん(左)と小倉(右)。

〈ゲーム作家・米光一成 × 病理医・小倉加奈子対談前編〉

「ひらめき」という神話をときほぐす

小倉:『ゲーム作家の全思考』はすばらしい本でした。米光さんの創作の裏側が惜しみなく書かれていて、MEdit Labの教科書にしたいほどの1冊です。帯に書かれている「創作するために「いい創作」も「いいアイデア」も不要」との一文に驚かされましたし、納得しました。まずは、この本が出版された経緯を教えていただけますか。

米光:いちばんのきっかけは、インタビューで「どうやって発想したんですか」とか「どうやったらいいアイデアが閃きますか」と何度も聞かれていたことです。作品をつくるきっかけは、とにかく多様です。でも、それをていねいに話していると、だんだん聞き手の顔が曇ってくるんです(笑)。ていねいに話せば話すほど、聞き手が思っている「ひらめき」とは違う話になってくるわけです。

そこで、ぼくはだんだん、ゲームが生まれた直接的なおもしろいきっかけを話すようになりました。「はぁって言うゲーム」ならば、「飲み会のあとさみしくて思いつきました」など、ごくごく単純化しました。これはけっして嘘ではないのですが、本にも書いたとおり、実際にはほかにもたくさんのきっかけがあるので、こうやって話すたびに「違うんだけどな」と思うことばかり。

インタビューなら字数が限られてしまいますが、自分で書く本ならば「原因と結果」に単純化せずとも、ゲームが生まれるプロセスが書けるはず。そう思って、この本を書きました。

▲MEdit Lab連載「医学に効くほん!」でもご紹介しています。

創作は「乱暴な現場の偶然性」から生まれる

小倉:どうしても私たちは、「画期的なアイデア」とか「劇的なきっかけ」などの原因があって、「いいゲーム」「いい創作」という結果につながると単純化して考えてしまいますものね。

この本の冒頭でも「これまでの人生あれもこれも」が創作のきっかけであるという伊丹十三監督の言葉が引用されていますが、この本はまさに米光さんの自伝っぽい要素も感じました。米光さんの来し方と、ゲームの作り方が合わせて書いてあるのが面白かったです。この本はどうやって出来上がったのでしょうか。

米光:ぼくは、創作は「乱暴な現場の偶然性」によって起こると思っていますが、この本も偶然性を取り込んで出来上がりましたね。章立てを考えてから書き始めましたが、それとはまったく違うものになりましたね。スケジュールもずいぶん伸びた……、いえ、ずいぶん変わりました。はい。

本でもゲームでも、作っていると計画には含まれていない起こります。そのときに「事前の計画と違うからやめておこう」とか「スケジュールが遅れるからやめておこう」ではなくて、より面白いものを作るために、そういった現場の偶然性を大切にしたいですから。

小倉:計画どおりに進むとは限らないですし、計画どおりがよいとも限らないですものね。

米光:もうちょっと分厚い本になる予定だったんですよね。

小倉:そうなんですか!

米光:書いていると気づくことってあるんですよね。「「AとBとCの内容を分けて書かないと伝わらない」と考えていたものが、実際に書いてみるとひとつの具体例だけで3つの内容がポンと伝えられたとか。たとえば、stage24の「口は気持ちいいか?」という章は、事前の計画では、もうすこし「口の気持ちよさ」を書くつもりでしたが、書き始めてみるとここはタイトル決めをテーマに絞ろうと気づいたということがありました。

小倉:計画ありきではなく、偶然性を取り込んで何かを作っていくプロセスをお聞きして、思い出した本があります。白石正明さんによる『ケアと編集』(岩波新書)です。米光さんとスタンスが似ているなと。著者は、医学書院のシリーズ〈ケアをひらく〉を長年手掛けられた白石正明さんという編集者さん。白石さんがこの本を書いたきっかけも、「どうやって、その本を作った?」とよく聞かれるからだと書いてありました。

米光:それは嬉しいです。シリーズ〈ケアをひらく〉は、ぼくも何冊も読んでいます。

小倉:白石さんも、米光さんに似た葛藤を抱えておられたようです。実際の企画プロセスは「たまたま」とか「受け身」的な出来事で満ちているのに、編集の仕事というと編集者の能動性にフォーカスされてしまう、と。ゲームづくりも編集も、おそらくケアも、本来はシンプルなストーリーに回収されない複雑な物語があるのでしょうね。

「ひとりで変顔」が「みんなで変顔」に!?

小倉:以前、別のゲーム作家の方に「ゲームはチームでつくらないほうがいい」と言われたことがあります。チームで作るとアイデアがしぼんでしまうからかなと思ったのですが、いっぽうで米光さんは他者による「乱暴な偶然性」を取り込んでゲームを作っておられますよね。米光さんは、チームでゲームをつくることについてはどう思われますか?

米光:何を「チーム」と呼ぶかによりますね。アナログのテーブルゲームは、試作の段階から、何人か集まってプレイする必要があります。それをチームと呼ぶなら、ゲームづくりにチームは不可欠です。ただ、そのときのチームは「この人はこの役割」と役割が固定するようなものではなく、もっとフレキシブルなものです。

小倉:ゲームが完成するまでには、かならず他者が必要になるんですね。

米光:みんなに遊んでもらって気づくことがかならずあります。たとえば、「変顔マッチ」というゲームを作ったときのことです。最初は、こういうルールを考えていました。ひとりのプレイヤーが、自分が引いた変顔イラストカードを真似して変顔をする。そのあと、まわりのプレイヤーがその変顔を見て、どの変顔カードを引いたのかあてる。

これはいい!と思ったのですが、プレイテストしてみると恥ずかしすぎるんです(笑)。ひとりで変顔するのは、ほぼほぼ罰ゲーム。ぜんぜん遊べるものではなかったんです。そのときに、ひとりで変顔するのが苦痛なら、みんなで変顔してみたら?と試してみました。すると、一気に楽しくなりました。

こういうことって、頭では想像できないんですよね。やってみてうまくいかないときに、「じゃあ逆にしてみたらどうだろう?」と試すときに面白さが出てくる。自分の予定していた面白さが、現場の乱暴な偶然によって変えられるということはよくあるんです。この予想のつかなさこそが面白いですね。

▲米光さんとドクターと医学生がともに自作ゲームのテストプレイを楽しみました。

他者とのインタラクションを続けたい

小倉:MEdit Labでもワークショップの合間に、順天堂大学のキャンパスに集まって、試作ゲームをテストプレイする機会を用意しています。米光さんにも何度か来ていただきましたが、テストプレイの場ってすごくあたたかいですよね。「ここをこうしたら?」っていう指摘は、たとえばSNSで言われたら反発したくなってしまうかもしれないけれど、いっしょに遊んでいる仲間に言われたらすっと受け入れられるのがふしぎだなと思います。

米光:テーブルゲームって、みんなが同じ場にいることの安心感がありますよね。人と人との物理的な距離が近くて、物騒な言い方になりますが、もしひどいことを言えば殴られる可能性がある。だからこそ、失礼なことを言わないようにしようという意識もはたらきます。SNSは、表情や言い方などの情報は削がれてしまい、発言した人の真意がよくわからないんですよね。それによってすれ違いも起きてしまう。

小倉:人間のコミュニケーションは、テキストだけではなくて仕草も表情もありますよね。米光さんのゲームは、さきほど話題に出た「変顔マッチ」しかり、「ぷよぷよ」しかり、人間の身体性を重視したゲームが多いような気がしています。この本には、ひょんなことから演劇をすることになったご経験も書いてありましたし。身体性への意識みたいなものは強いのでしょうか。

米光:身体性と呼ぶのかはわかりませんが、ぼくは「インタラクション」への興味は幼い頃から強いと思います。モノにでも友達にでも、自分が何かをすると反応が返ってくることがずっと続くのが面白いなと感じていました。

そのインタラクションが生まれるきっかけを、自分で作るのも好きでしたね。UFO研究会とかを作って……。

小倉:UFOですか!?

米光:空飛ぶ円盤を作るのを目標に掲げて、放課後に活動していましたね。科学の知識がないから、結局はUFOの話をしていただけなんですけど(笑)、UFO研究会の会員証を作ったりして。ディテールに凝るのが好きな子どもではありましたね。

後編につづく

 

投稿者プロフィール

梅澤奈央
梅澤奈央
聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。