久々の小説紹介です!
夏休みシーズンは、各出版社から“夏の100冊”的なフェアが次々打ち上げられますし、休みを取って家でゴロゴロしている時に読む本として、やたらと小説を欲するのは私だけでしょうか。と言いつつ、気がついたらあっという間に9月になっていたのですが、だとしたら、新学期がはじめるしんどさを和らげる本をみなさんにお届けしたい。
ということで、これまで、ずっと「医学に効くほん!」としてあげたいなぁと思っていた本を今回、取り上げてみます。
小川糸さんの『ライオンのおやつ』です!
最近、食をテーマにした小説はラノベを含めて実にたくさん登場していると思いますし、最近、本屋大賞を受賞した『カフネ』も美味しい料理が次から次へと出てきて食欲をそそる本であり、日々の食事がいかに人の心を癒すかを痛感するのですが、小川糸さんのこの本ほど、幸せな気持ちになる食の本はないのではないでしょうか?
◆医師にできることは少ない
『ライオンのおやつ』のポプラ社公式サイトには、著者の小川糸さんがこんなメッセージを寄せられています。
読んだ人が、少しでも死ぬのが怖くなくなるような物語を書きたい、と思い『ライオンのおやつ』を執筆しました。 おなかにも心にもとびきり優しい、お粥みたいな物語になっていたら嬉しいです。
誰しも死ぬ、ということは理屈でわかっていたとしても、死を間近に控える人が少しでも安らかに過ごせるように。そういう小川さんの優しさが全体にしみわたっている物語です。
舞台は、瀬戸内の島にあるとあるホスピス。このホスピスでは、生きている間にもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があるのです!主人公の雫は、どんなおやつにするか決めかねているというところから物語が動いていきます。
この本をいったん医師の立場で改めて鑑賞すると、医療それ自体が死にゆくひとにできることはごくごく限られているということを再認識します。私が、高度な診療を専門としている大学病院の勤務医で、診断を専門としている病理医だから余計にそう思うのかもしれません。
ただ、余命宣告のあと、ひとりの医師ができることはそれほど多くないように思います。もちろん、肉体的な苦痛を和らげる医療的なサポートなど、やれることはあるわけですが、あたりまえでささやかな日常こそが、死が迫っている人々にとって何よりも尊いのですよね。
◆命をいただき命をつなぐ
この小説でもうひとつ感じることは、命をいただいて命をつなぐ、という、これまたあたりまえの事実。毎回の食事にはさまざまな命の恵みがふんだんに込められていて、私たちはたくさんの命に支えられて生きています。
丁寧に食べること、着ること、住むことの素敵さをじんわりと感じられる読書体験が確約されている本書。夏休みが終わってしまって、憂うつな気分の時にゆっくりと読まれることをお勧めします。
◆バックナンバーはこちら
投稿者プロフィール

- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
最新の投稿
- 2025.09.01医学に効くほん!命をいただき命をつなぐ『ライオンのおやつ』
- 2025.08.28レッツMEditQ耳かきと歯磨きで準備万端?「MEditカフェLEO2025開催」
- 2025.08.25レッツMEditQおしゃべり病理医、ゲーム業界デビュー?!「京都シリアスゲームサミット」レポ
- 2025.08.18医学に効くほん!論理は飛躍してナンボ!『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』