おしゃべり病理医(母)「来年、海外旅行行くとしたらどこ行きたい?」
じゅんちゃん(祖母)「イタリアは良かったわよねー。ほら、フィレンツェでガイドさんが連れて行ってくれたレストラン、美味しかったじゃない?それに引き換え、ローマのレストランの料理ったらひどくて…」(いきなり10年以上前の思い出を語る)
医大生息子「あ、今、俺、耳鼻科を回っているんだけど、イタリア人留学生が来てる」(今の自分の出来事と強引につなげる)
母「あなた、英語話せるの?」(そのままその話題に乗るおしゃべり病理医)
医大生兄「ふっふ、余裕だよ。一緒に昼食べたときに、『お稲荷さんって何?』って聞かれたからさ、『We eat with sushi.』って軽く説明したあと、sushi, sushi, sushi, sushi, INARI!!!って叫んだら、わかってくれたよ」
娘「出川イングリッシュみたい(笑)」
・・・おしゃべり病理医家の雑談の一部をお届けしました。
◆0.1秒単位の世界
日常、何気なく繰り広げられる雑談。理路整然とは程遠く、会話は様々な連想を含んであちこち飛んでいきます。それでいて会話はつながっていき、時にみんなで笑ったり驚いたり怒ったり。
2009年の世界陸上、男子100メートル走決勝におけるウサイン・ボルトと2位のタイソン・ゲイとの差は、0.13秒。「そんな短い時間を競っているのか、アスリートは!」と驚いているそこのあなた! 実は、会話と会話の間(話者が交替しての発話を「ターン」といいます)もたったの0.2秒しかないのだとか!
私たちは日々の雑談の中で、とんでもない情報処理を瞬間とも呼べる短い時間の中で的確な処理するという曲芸を無意識にやってのけているのです。おしゃべり病理医家の雑談も曲芸の連鎖がなせるワザ、いうわけです。
そんな会話の不思議に魅了されて書かれた本が、本書『会話の0.2秒を言語学する』。著者は、言語学ラジオ主催の水野太貴さん。水野さんは、大学で言語学を専攻された後、出版社で編集者として勤務するかたわら、YouTubeやPodcastチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で話し手を務めておられます。
ご本人は、自分は言語学の専門家ではないと謙遜していますが、だからこそ、言語学素人の私たち読者にとっては、とても親切で愉快な言語学の入門書になっていると思います。言語学のこれまでの学説を取り上げつつ、言語に関して様々な角度から考察されており、読者も同じ視点で改めて言語の不思議さに開眼させられる構成になっています。認知科学にも脳科学にも社会学にもつながりそうな、コミュ力の高い1冊だなぁと思いました。
◆当たり前のことを科学するって重要
今日の医学は、人体の機能のありとあらゆることを解明し、難病と言われる病気の病態を明らかにしては、治療法を開発しと、その進歩は目覚ましいものがありますが、一方で、日常会話において、私たちの脳内ではどんな情報処理が行われているのか、ということは、まだまだわからないことだらけなのです。
言語学というと、なんとなく文系分野のイメージがありますが、chatGPTを代表するAIの進歩にあいまって、今や脳科学や認知科学を含め、科学的アプローチも試みられるようになってきました。これからはますます学際的な試みがさかんになり、色々なことが明らかになるだろうなと思うとワクワクします。
「会話の0.2秒を言語学する」→「当たり前のことを科学(医学)する」
なんといっても、当たり前のことを改めて考えることは、どんな分野でもとっても大事だことだなぁと思います。そしてどんな分野もつなげる「学びの越境力」(←MEdit Labがとても大事にしたいと思っているコンセプトです)がますます問われる時代になっています!
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投稿者プロフィール

- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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