医学に効くほん!
医学に効くほん! COLUMN
2026.01.12
2026.01.12
その人らしさとは?『脳科学者の母が、認知症になる』
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中高生のみなさんは、認知症という病気に関しては、あまり自分事という気がしない方が多いでしょう。でも、もしかしたら、おじいちゃんやおばあちゃんが認知症を患っている、という方はおられるかもしれませんね。

本書『脳科学者の母が、認知症になる』(河出文庫)は、脳科学者の恩蔵絢子さんが、認知症になったご自分のお母さんの様子を記録し、脳科学的な観点から考察したものです。でも、脳科学者だからといってサイエンス一辺倒のような本ではなく、なんといっても娘さんの立場でも書かれているものですから、愛するお母さんの変化を受け入れるご自分の切ない心境も綴られています。主観的になりすぎず、客観的になりすぎず、認知症について深く理解できる良書です。

◆人が変わってしまうのが怖い

誰しも認知症になるのは怖いものです。その理由は、自分が自分でなくなってしまうように思うから。大好きな家族のことまでわからなくなってしまったら生きる意味がなくなってしまう。そういった絶望的な気持ちをもたらすのが認知症という病気です。

本書でも副題に「記憶を失うと、その人は“その人”でなくなるのか?」とありますし、恩蔵さん自身もその切実な問いに向かいながら、お母さんと生活を共にしていきます。そして、認知症になってもその人らしさは残るんだ!ということを発見するのです。

◆学習し続ける人間の生きる力

人間は、どんな状態に置かれても、残っている脳部位を使って、自分を守り、生き抜くために適応する力があると恩蔵さんは言います。その力を周囲がうまく引き出せるようにサポートすることが大切です。

一昔前の北海道のアイヌでは、認知症になった老人に言葉が通じなくなっても、「神用語を話すようになった」、つまり、自分とは心を通わせることができない神様のような存在になったと考えて、仲良く暮らしたのだとか。素敵ですよね。

◆感情こそが知性である

また、恩蔵さんは、感情こそが知性であると断言します。認知症では、感情が残る。この意味をポジティブに捉えることが大切で、絶望的な状況の中で抱いた小さな明るい感情が、のちのち、自分を支える力に育つといいます。

明るい感情を持てるように、なるべく適切な情報を伝えるような工夫を継続していけば、認知層であっても、その人はその人らしく生きていけるということ。

結局、母は母なんだという筆者が結論に至る過程を読者として伴走できる本書の読書体験は、素晴らしいものです。ぜひ、中高生にも読んでいただきたい1冊です。

※お母さまは、2023年5月に72歳でお亡くなりになったそうです。ご冥福をお祈りいたします。

 

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投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。