ふしぎな医学単語帳
ふしぎな医学単語帳 COLUMN
2023.12.14
2023.12.14
小腸のでべそ!?「メッケル憩室」
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先日、歌手のKANさんがメッケル憩室(けいしつ)のがんでお亡くなりになりました。1991年に大ヒットした、“し~んぱ~い、ないからね~♪”の『愛は勝つ』に、励まされた方も少なくないのではないでしょうか。

◆小腸のてべそ!?

さて、メッケル憩室のがんは、きわめて珍しいと報道されていますが、「メッケル憩室」自体はそれほど珍しい病気ではなく、全人口の1~2%の頻度で生じるといわれています。男性に多く、基本的には無症状のため、多くがCT検査などの画像検査で、偶然に発見されます。

ふだんは無症状ですが、潰瘍ができて出血したり、腸閉塞の原因になったり、KANさんのように稀に腫瘍ができることがあるため、発見された場合は、無症状でもその部分を切り取る手術を行うことも少なくありません。特に小児で見つかった場合は、将来の合併症のことを考慮して、積極的に治療されることが多いです。

メッケル憩室とは、たとえると、小腸のでべそのような突起です。小腸の一部がぽこっと横に飛び出して袋のようになっている状態のものをいいます。小腸は、消化管のひとつで、胃とともに食べ物の栄養を吸収する機能を持つ大切な臓器です。胃に近い部分から、十二指腸、空腸、回腸と呼ばれていて、小腸の全長は7メートルほどにおよびます。回腸を過ぎると大腸の入り口である「盲腸」があります。この盲腸と回腸の間にはちょっとした開閉式の弁のような構造があり、「バウヒン弁」と呼ばれています。メッケル憩室ができる部位は、大人ですと、このバウヒン弁から1メートル弱ほどの回腸の部分です。

◆メッケル憩室は先天性のもの

メッケル憩室は、先天性のもので、胎生期(お母さんのおなかの中にいる時期)に、小腸が完成していく“発生”の過程で起こるものです。みなさんのおへそは、実は、腸管がお腹の中にしまわれた痕跡なのです。最初は腸の一部はお腹の外側に出ているのですが、お腹の壁がじょじょに作られるのと同時期に、腸がねじられながらお腹の中にしまわれていきます。この過程で、古い腸の一部が残ってしまったのが、メッケル憩室です。

メッケル憩室の名前の由来ですが、例によって、発見者の名前にちなんでいます。19世紀のドイツの解剖学者、Johann Friedrich Meckel先生が初めて正確な記録を残したので、以来そう呼ばれるようになりました。「憩室」自体は、さきほど“腸のでべそ”と表現したように、腸の壁の一部がポコッと横に飛び出たような状態になっているものをいいます。

メッケル憩室は特別な憩室ですが、憩室自体はさらに頻度が高い疾患で、特に硬い便が通り、内圧が高くなる大腸でよくみられ、大腸の内視鏡を行うと約10%くらいのひとに見られるといわれています。憩室の部分は、腸の壁が薄く、そこに便がつまったり、炎症が起きる(「憩室炎」といいます)と、破けてしまう危険もあります。憩室ができやすい体質の方もおられますが、バランスの取れた食生活を送って、便秘にならないように過ごすことが大事ですよ~。

〇参考URL〇

メッケル憩室 – 一般社団法人日本小児外科学会 (jsps.or.jp)

日本病理学会「病理コア画像

投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。