◆自己免疫力アップ!?
コロナパンデミックが起きてから、健康をテーマにしたサイトやテレビ番組で「免疫力アップ」という言葉をよく聞きます。私の家族の一員、まるちゃん(5歳・♂犬)のおやつの袋にまで、「自己免疫力アップ」という言葉が…! 自己免疫疾患も連想されるこのキャッチコピーには考えさせられてしまいました。
巷にあふれる「免疫力アップ」という言葉。これ、伝えたいことはよくわかるのですが、ぜんぜん正しくありません!
免疫力は、ただアップすればいいというものではありません。免疫力はからだにとって諸刃の刃であり、アップしすぎると自己免疫疾患になってしまいますし、弱くなれば感染症にかかりやすくなります。免疫機能に大事なのは「バランス」なのです。
免疫機能のバランスは、実に様々な要因が複雑に絡み合っています。もちろん、暴飲暴食をせず、早寝早起きをし、適度な運動をする、といった規則正しい生活習慣は健康にとって大事な要素ではありますが、どれかの要素だけを取り出して、「免疫力がアップします!」というのはナンセンスですし、何かひとつの要因だけ強化すれば免疫力がアップするようなことはありません。
◆テクノロジーとリベラルアーツの交差点
本書『遺伝子が語る免疫学夜話』は、自己免疫疾患(膠原病疾患ともいわれることもあります)がご専門のドクター、橋本求先生が一般読者向けに書かれた免疫学のお話です。専門家が読んでも十分に読み応えのある本格的な内容ですが、「夜話」とあるように、平易な文体でとてもわかりやすく書かれています。
書き始めた当初、橋本先生は、免疫の仕組みを医学的に正確に説明することに重きをおいていたそうですが、書き進めるにしたがい、「なぜ、自己免疫疾患が起きるのか?」という問いに答えるべく、サルディーニャ島の歴史や文化、アイスマンの遺伝子情報、シマウマの縞の謎、ガラパゴスの生態系などの話も含めて、免疫の仕組みについて語ることとなったとあとがきで述べられています。
これまで私たち人類の歴史は、コロナウイルスに限らず、感染症との闘いの連続で、感染症に打ち克つために免疫をはじめ身体の機能を変化させてきました。その結果、何世代も前に、ある感染症から身を守るために獲得した免疫機能が、今現在、別の自己免疫疾患を引き起こす要因になっている場合もあるのです。なんともジレンマで、免疫機能のバランスを保つのは、一筋縄ではいきません。
本書は、そんな複雑怪奇な免疫機能のシステムについて、遺伝学や文化人類学なども参照しながら、広い視野で解説されている数少ない良書なのです。
スティーブ・ジョブスは、「テクノロジーとリベラルアーツの交わるところにこそ大きな価値がある」と述べていて、橋本先生も「免疫学」も今まさにこの交差点を渡ろうとしているのだといいます。
MEdit Labの目指しているのも「リベラルアーツとしての医学」。本書の姿勢と試みに深く共感したのでした。
寝不足必至の壮大な夜話、ぜひお楽しみください!
◆書籍情報◆
投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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