■オープニングイベントを順天堂大学にて開催しました!
2024年7月20日(土)、中学・高校が夏休みに入ろうとする頃。順天堂大学 本郷・お茶の水キャンパスには、中学生・高校生、そして親御さんから社会人まで、スタッフ含め総勢120名以上が大集結。MEdit Labワークショップ「医学をみんなでゲームする2」のオープニングイベントが開催されました。
最高気温36度、熱気あふれる当日のレポートをお届けします。
▲会場は2023年度と同じく、順天堂大学 本郷・お茶の水キャンパス7号館。
▲明治39(1906)年の順天堂・本館を復元した白亜のファサードがお出迎え。
▲ポスターはポップな色使いとデザイン。さまざまなゲームの要素を散りばめています。
■MEdit Lab主宰・小倉加奈子先生のごあいさつ
13時30分になりました。まずは、MEdit Lab主宰・小倉加奈子先生からのご挨拶。「医学をゲームする」とはいったいどういうことなのか? みんなが気になることを軽快に説明していきます。
「医学は、医学部で勉強するものだと思いこんでいませんか」
「中高生向けの教材をつくっていたときに、ウイルスバトルというゲームが生まれました。ゲームをつくるために、私たちは何ヶ月も勉強しました。けれど、そのゲームを中高生が遊ぶと、たった30分でウイルスのことをマスターできちゃうんです」
いっけん専門的に見える「医学」ですが、本来はカラダとココロを学ぶ学問。誰にとっても生きるうえでとても大事なもの。
そして、「学び」の対極にありそうなゲームだって、じつは私たちの学習のヒントになるのです。
▲参加者の手元にはパンフレット。「リベラルアーツとしての医学」も大事なキーワード。
■ゲーム作家・山本貴光先生による基調講演
小倉先生が壇上へ呼び込んだのは、文筆家でゲーム作家の山本貴光先生。山本先生は、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の教授であり、ゲーム学を研究し、哲学を教えておられます。
「ゲームと医学はけっこう似ています。どちらも『問題』が中心にあります」
そう話し始めた山本先生。
医学なら、身体や心に生じた「問題」を解決するもの。いっぽう、ゲームは? そう、ゲームも「問題」を解決していくもの。
山本先生が最近プレイしたという時代劇ゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」なら、対馬にモンゴル軍が攻め入ったという「問題」があり、それをひとりの侍としてなんとかしていくもの。スポーツだってトランプゲームだって、なんらかの問題を解決していくのがゲームの面白さです。
そして、「ゲームをつくるということは、重要なリベラルアーツの一種」だと山本先生は続けます。
「さまざまな問題に対処するための基礎的な学問や技術をリベラルアーツといいます」。
ゲームをつくるプロセスでは、問題に対してどのようにアプローチするか、さまざまな角度から考えていく必要があります。
「ゲームづくりは知の総合格闘技」
どうやら、ヒポクラテスも、自然を学ぶための総合学問として医学をとらえていたとか。ゲームと医学って、どちらも生きていくうえで重要な知であるようです。
■ドクター夫婦登場! 医者人生のアレコレを語る
つづいて登場したのは、白衣の2人。發知詩織先生(右)と發知佑太先生(左)。「ほっち」という珍しい苗字が一緒のふたり…ということは……?
そうです、ドクター夫婦! 詩織先生は、「病理医しんしん」としてMEdit Labでもおなじみ。佑太先生は、救急医としてMEdit Lab「ドクターほっちの救急箱」コラムを連載中。
發知夫婦は、順天堂大学の同級生。同じ大学出身で、同じくお医者さんなら、お仕事も似ているのではと思いきや、互いのお仕事は「ぜんぜん違う」と言います。
しんしん先生は「病理医」。患者さんの細胞を顕微鏡で見て、病気の診断をする仕事。患者さんと対面することはほとんどありません。
いっぽう、佑太先生は「救急医」。救急車で搬送されてきた患者さんの対応を第一線でおこなっています。同じドクターでも、仕事はまったく違う……。いったいどうしてなんでしょう?
しんしん先生はこう説明します。
「医師の人生は、『医学部に入ったらお医者さんになる』といった1本のレールのようなものだと思っている方も多いと思います。けれど、実際は、むしろ『すごろく』に似ています」
「6年間の大学医学部を卒業して、医師免許を取得したら、2年間の初期臨床研修。医師3年目で、19種類の専門科のなかから1つを選ぶんです」
医学部に入ることがゴールだと思っていたら、どうやらその先も選択肢がいっぱいあるらしい。
「医者とはひとつの資格ですが、働き方はたくさんです!」
ドクターを目指す高校生たちは、前のめりになって2人の話を聞いていました。
▲「なぜ医者に?」「高校生活は?」など、高校生から質問が寄せられ、赤裸々なお答えが。
■評論家・與那覇潤さん、MEdit Lab初登場
そして、今度は『ボードゲームで社会が変わる』の著者で評論家の與那覇潤さんがご登場。MEdit Lab初登場です。サイトでも『ボードゲームで社会が変わる』や『知性は死なない』など2冊をご紹介しましたが、與那覇さんは、うつを患ったご経験があり、そのときにゲームの可能性に開眼。リワークデイケアで、患者仲間と遊んだゲーム体験をお話しくださいました。
リワークデイケアに通う仲間たちは、ともにメンタルの病気を患っていたけれど症状はバラバラ。言葉が出てこなくなるタイプもいれば、しゃべりまくってしまうタイプもいる。そんな仲間たちと、どうやったらうまくコミュニケーションが取れるのでしょう。
そこで與那覇さんは発見するのです。
「ボードゲームをいっしょにやると、自然と会話ができるようになる」。
ゲームが「会話の松葉杖」になるのです。
「人狼」や「ワードウルフ」といった会話ゲームや、ドイツ生まれのボードゲーム「カルソンヌ」など、さまざまな具体例を出しながら、お話しを展開する與那覇さん。どうやら、ゲーム内のコミュニケーションには、意外な楽しみがあったと言います。
特定の仲間たちとゲームと続けていると、「今日は慎重な人たちが集まっているから、自分はこういう戦略を取ろうかな」とか「あれ、いつもは大胆なリスクを取る人なのに今日は違うな、ということは?」など、相手の出方によって、自分の戦略をその場で変えていけるのです。
それに、「オレは負けちゃうけど、場が盛り上がるからこうしてみようかな」なんて、ゲームの勝ち負けではないところで、楽しむこともできる。
與那覇さんはいいます。
「能力が高い人が集まって、将棋の名人戦をするのもいい。けれど、そうじゃない楽しみもあります」
「このメンバーがそろっていたから、いい時間になったね。そんなゲームの楽しみだってあるんです」
多様なバックグラウンドをもつ人たちといっしょに時間を過ごす。ゲームは、人々のコミュニケーションを支える手段でもあるのです。
■「ゲーム×医学」を語る! 病理医×ゲーム作家×評論家の異色鼎談
最後には、MEditLab主宰の病理医小倉加奈子先生、ゲーム作家で文筆家の山本貴光先生、そして評論家・與那覇潤さんによる鼎談セッション。
山本先生が、なぜ、ゲームを前にすると会話がしやすくなるのかを分析したり、與那覇さんが歴史を学ぶならゲームで体験するほうが役に立ちそうと提案したり、小倉先生が教育現場における「シリアスゲーム」の効果を模索したり…。ここまでのセッションのまとめにとどまらず、シリアスゲームにおける学びと遊びのバランスをどうつくるか、はたまた、個人の能力とはいったい何かといった哲学的なテーマまで話題がおよぶ濃密なディスカッションとなりました。
ゲームを使って「学び」が深まる。ゲームを作れば「学び方」まで、身につけられる。
「医学をみんなでゲームする」ことの意味をさまざまに掘り下げて、3時間のオープニングイベントは終了しました。
▲会場の小川講堂で記念撮影!中学生から親御さん、医療関係者やゲーム関係者まで大集結。
▲イベントの一部始終はカメラ部隊が撮影。青いユニフォームはドクターの制服「スクラブ」。
■読む?話す?ゲームする? 充実の懇親会へ!
オープニングイベント終了後、希望者は残って懇親会へ。
憧れの医学部の先輩に、受験勉強のあれこれを相談したり……
テーブルに所狭しと並べられたゲームを見たり、MEdit Lab特製「ウイルスバトルゲーム」のルールブックを読み込んだり。
順天堂大学現役医学生が作ったゲームを、医学部生といっしょに遊んだり。
自分たちが作ったゲームに、山本貴光先生からアドバイスをもらったり。
じつは、このイベント、アナログゲームの編集者某I氏や、あの「ぷよぷよ」を開発した米光一成さん(デジタルハリウッド大学教授)もご参加くださり、懇親会では昨年度のワークショップで参加者が作ったゲームで遊んでくださいました!
▲米光さんの手書きメモ。「5ページもメモしちゃった」と米光さん。
MEdit Labメンバーしんしん先生が開発した病理診断を体験できるゲーム「バナオーマ」を遊んで、大盛りあがり。米光さんもI氏も「これ売ってないんですか?」と尋ねる一幕も。
オープニングイベントから懇親会まで、盛りだくさん! 参加者のみなさんに感想を聞いてみると、おおいに刺激を得たようです。
・「リベラルアーツとか単語すら知らなかったものの、今まで聞いたことのない話をたくさん聞けてすごくワクワクした」(高2女子)
・「iPhoneアプリを作ったことはあるけど、ゲームをゼロから作るのは初めてだからとても楽しみ」(高2女子)
・「4歳から医者を目指しているので、本当のお医者さんに話を聞けて、発見があってよかった」(中学生男子)などのお声が。
親御さんからも「オープンキャンパスや学校説明会とはまた違って、医学生や先生方と距離が近くて質問がしやすかった」という感想をいただきました。
スチール撮影:後藤由加里
動画撮影:小森康仁、衣笠純子
■ここからゲームづくりが始まります
ゲームの可能性を存分に体感1日を終えて、参加者たちは次なるミッションにむかいます。そう、自分たちで医学に関するゲームをつくるのです。
オープニングイベントの終盤には、MEdit Lab特別カリキュラムのご案内もありました。12のお題に答えると、自然と「医学を学ぶゲーム」をつくれちゃうというミラクルなカリキュラムです。課題に対しては、現役ドクターからの指南も届くという手厚さも魅力。オンラインで進むので、遠方の方でも参加できる仕立てです。
7月27日(土)からお題スタート。さあ、どんなゲームが生まれるのでしょう。みなさんがつくりだしたゲームは、12月のクロージングイベントでお披露目予定です。
▲カリキュラム一覧はこちら。気になるお題、ありますか?
投稿者プロフィール
- 聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。