「ゲームと医学はけっこう似ています。どちらも『問題』が中心にあります」
先日のMEdit Labワークショップ「医学をみんなでゲームする2」のオープニングイベントで、東京工業大学教授の山本貴光さんはそう断言しました。
医学部初のSTEAM教育研究会であるMEdit Labでゲーム作りのワークショップを開催している理由のひとつもここにあります。誤解を恐れずに云うならば、医師の診療行為は、患者さんを治すという明確なゴールが設定されるゲームメイキングであり、そのプロセスを磨き続けることで医師の技量は向上していきます。
ゲームは遊びだから、仕事とは関係ない、と切り捨てる感覚は大変にもったいないし、ゲーム作りもゲームのプレイ体験も様々な学び方の示唆に溢れているのです。
そんなゲームエクササイズの可能性と遊びの本質をえぐってくれている良書を今日は紹介しましょう。こちらも山本貴光さんにおススメしていただいた本で、日本語版解説もご担当されています。
◆遊びにも仕事にも使える本
「本書は、なすことによって学ぶ(learning by doing)の原則を土台にしている。何らかの体験の構築や、組織の管理、仲間との協働、文化の創造は、どれもデザインだ。」
著者のエリック・ジマーマンがそう断言するように、本書は、プレイ・システム・デザインの3つの観点で、遊びと創造の本質について解説され、また、それを実感する様々なエクササイズが紹介されています。
これがすごいんです。病理医の私にとって日々の病理診断のプロセスにも通ずるヒントが満載で、思わずマーカーを片手に熟読してしまいました。
「プレイとは、世界との関わり方だ」
「システムで重要なのは、部分から生じた全体だ」
「デザインは、少なくとも半分がコミュニケーションの問題だ」
組織でリーダーシップをとるとき、教員として面白い授業を考えるとき、あるいは営業で顧客のニーズに応えようとするとき、などなど、医師以外、エンジニアや教師や銀行員や起業家にとっても示唆に富む内容がいっぱいだと思います。
◆5000年のゲームの歴史
人類は、約5000年ほどのあいだ、少なくとも文字を使いはじめたころから、ずっと、ゲームを手放しませんでした。私たちは本来がゲーマーの遺伝子を持っているんですね。私たちがゲームに夢中になれるのは、それが虚構の世界だとわかっているからで、安心、安全な状況下で、社会の物事をシミュレートし、様々な立場に立って考察してみることが可能になります。ですから、ゲームをデザインするというのは、間接的に人の経験をデザインする仕事になるのです。
著書のエリック・ジマーマンは、アメリカのゲームデザイナーであり、ゲームデザインを通じた研究や教育の実践者でもあります。ゲーム研究(Ludology)は20世紀末くらいから大学をはじめとする教育機関でも研究が進んできた新しい分野ですが、まだまだ「ゲーム」という言葉に対するアレルギー反応も強く、ゲームデザインを教育に結び付け、人々がものを見る目を養ったり、創造的なデザインをするための方法として確立されるようになるためには道のりが長そうです。
現在、ワークショップ「医学をみんなでゲームする2」では70名ほどの中高生、大学生、一般の方がゲームデザインを体験中。MEdit Labからこれからも医学とゲームの可能性を発信できたらなと思っています!
エリック・ジマーマン著、高崎拓哉訳『遊びと創造 やわらかなデザイン頭を養うゲームエクササイズ25』BNN
投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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