繊細な手術をする小児外科医について以前、コラムで紹介しましたが、1㎜以下の極小世界を専門とする外科医たちがいます。
今日は『テノゲカ』を紹介したいと思います。「医学に効くほん!」で初めてマンガを取り上げますが、マンガを読んでいると眉をひそめるお父さんお母さんもおられるかもしれませんね。でも、読書に本もマンガも関係ありません。第一、図鑑がよくて、なぜマンガはダメなのか? 秀逸な作品は小説に限らず、マンガにもたっくさんあり、医師をはじめ医療現場を舞台にした素晴らしいマンガも目白押し。病理医の私は『フラジャイル』も紹介したいところですが(それはまた次の機会に)、たいていの医療マンガを読んで感心するのが、漫画家あるいは原作者の先生方が医療現場を丁寧に取材をし、勉強されていることです。
◆マイクロサージェリーって?
さて、今日紹介する『テノゲカ』。実は医療監修を、医学部時代の同期の整形外科医、市原理司先生が担当されていて、先日会った時に、なんと原作者と漫画家の両先生のサイン入り本をいただいたのです!
サイン本をいただいたから紹介したの?と言われたら、まぁ、きっかけはそうなのですが(笑)、さっそく読んでみて驚きました。むちゃくちゃ面白いんです! そしてマイクロサージェリーという専門分野について、医師の私が読んでもなるほどなぁと勉強になる充実の内容で、大変良書だったのでした!
マイクロサージェリーは、手術用ルーペや手術用顕微鏡を用いて微細な手術を行う技術のことをいいます。ですので、特定の診療科に限定される技術ではないのですが、主に、整形外科医と形成外科医がこの技術のリーダー的存在であることは間違いないのではないかと思います。
そもそもみなさんは、外科医、整形外科医、形成外科医(や美容外科医)の違いをご存知でしょうか。共通点は、手術を行うこと。そのなかでも外科医は内臓を専門とする医師を指し、細かく消化器外科医、呼吸器外科医、心臓血管外科医などに分かれます。整形外科医は、筋肉や骨、またそのふたつの接続部である関節を専門とする医師であり、骨や関節の動きが正常になることを目的として診療しています。一方、形成外科医は、身体の(主に表面の)、生まれながら、あるいは怪我などによる、変形や欠損に対し、機能的なものだけではなく、見た目を整えることを専門にする医師です。その中でより美しさを求め、病気以外の患者さんのニーズにこたえる外科医が美容外科医といえます。外科医といえば、他に脳神経外科医もいますね。
マイクロサージェリーは、マイクロなサージャリーですから、1㎜以下の極小世界での手術技術を意味します。よって、上述の様々な外科を専門とするドクターの中で得意としている先生がそれぞれおられます。
◆技術も道具もスゴイ!
具体的にマイクロサージェリーは、どんな病気を治療する技術なのでしょうか。マイクロサージャリーの歴史は、1965年に奈良県立医科大学で玉井進名誉教授が、世界で初めて顕微鏡下に母指再接着を成功されたことに始まるのだそうです(『テノゲカ』の先生方は玉井先生とお会いしてお話を聞く機会もあったのだとか!2巻の巻末に原作者の詩石灯さんがコラムを書かれています)。繊細な神経や血管を扱わなければならないあらゆる疾患で必須の技術だといえます。
切断された指を再度つなぎあわせるためには、そこに切断された1㎜以下の血管(動脈と静脈があります)や神経などをすべて正しくつなぎあわせることが必要になります。血管と神経を間違えてつなげてしまえば、血液の流れが途絶えて、指が腐ってしまいますし、指の感覚がなくなったり、動かすことができなくなってしまいます。
手が器用といわれている日本人医師が得意とする分野なのだろうと、一日本人として日本におけるマイクロサージェリーの歴史をひもとくだけで、鼻高々になってしまうのですが、その技術力の高さには本当に驚かされます。指を震わすことなく、1㎜以下の血管や神経の断面に、見えないほどの細さの針糸を何度も通して縫い合わせるなんて…。外科医の技能は信じられませんが、それだけではなく、目に見えないほど細い針糸を作る技術や顕微鏡のレンズの性能の高さなど外科医をサポートする医療器具の精密さにも驚かされます。マイクロサージェリーに賭ける、職人気質のプロの意地を感じます。
『テノゲカ』は、マイクロサージャリーの魅力を余すことなく伝えてくれているだけでなく、主人公の手塚一心をはじめ、登場人物それぞれもとっても魅力的です。様々な事情を抱える患者さんに対し、主人公の手塚がどんな治療方針を立て、一医師としてどう接するか。それぞれの患者ストーリーに涙しつつ、登場人物の伏せられていた謎がじょじょに明かされていくのでわくわくしっぱなしです。
とにかく・・・必読です!!!
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投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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