風邪(かぜ)は東洋医学の言葉で、風(ふう)の「邪」のことです。
現代ではウイルスが風邪を引き起こすのはよく知られていますが、先人たちも、身体の外側から何かがやってくることが要因ではないかと考えました。その何かを「邪」とみなしたのです。
厳密には風邪は風寒邪(ふうかんじゃ)であり、名前からも寒い風が吹いてきて身体の周りにまとわり付く様子がイメージできます。風寒邪が侵入してくると、身体も応戦して熱が出ます。そして、邪と身体の闘いによって症状は様々に変化していくことになります。
西洋医学では、熱の出るメカニズムをサイエンス的に以下のように解明しています。
1.まず、ウイルスに感染すると免疫細胞がサイトカインと呼ばれる物質を放出して、脳の視床下部という部位に作用してプロスタグランジンE2が作られる。
2.これが体温調節中枢である視索前野に作用すると熱産生が促されて発熱する。
3.発熱すると免疫細胞が活発になり、ウイルスの増殖が抑えられる。
と、これでも簡略化しましたが多種多様な細胞や物質が関与して私たちは発熱をしているのです。先人たちの見立てはあながち間違っていませんね。
では、どうやって見方を確立させたのか。注目したのは、症状の変化です。病気だけではありません。この世に存在するあらゆるものは、常に移り変わっていきます。生き物は誕生・成長・衰退・死滅しながら新たな命にバトンタッチする。季節は春夏秋冬と移り変わり、夜空に見える星座も1年を通して変わっていく。私たちの身体も同様です。人間は37兆個の細胞が集まって一人の「わたし」となっています。細胞の中には神経のように生まれ変わらない細胞もあれば、腸管のように数日で新しくなる細胞もあります。自然も人間も諸行無常なんですね。
東洋医学を確立した先人たちが生きた当時は、現代医学のようにウイルスや細菌の存在もDNAや遺伝子もわかっていませんし、それらを知る技術も当然ありません。あるのは観察と想像の力だけ。目に見えないモノやコトも変化をつぶさに観察し、想像力を働かせて「見方」を創り上げていったのが東洋医学なんです。
投稿者プロフィール
- 生まれも育ちも石川県。地域医療に情熱を燃やす若き総合診療医。中国医学にも詳しく、趣味は神社巡りとマルチな好奇心が原動力。東西を結ぶ“エディットドクター”になるべく、編集工学者、松岡正剛氏に師事(髭はまだ早いぞと松岡さんに諭されている)。
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