実直なお人柄がそのまま顕れたド直球なタイトルの本書は、2022年のノーベル生理学医学賞を受賞したスバンテ・ペーボ博士の自伝的本です。「ネアンデルタール人は私たちと交配した」と言われて、「はー、そうですか。それで?」と、冷めた反応しかできなかったみなさんも少なくないかと思いますので(実はわたしも最初はそう)、ここでは、本書の(というかペーボ先生の)魅力を存分に語りたいと思います。
ノーベル賞の受賞理由について、ニュースでは「絶滅したヒト科のゲノムと人類の進化に関する発見」とかなり要約されすぎてしまっているために、何がどうすごいのかわかりにくいと思うのですが、ペーボ先生の功績は偉大過ぎますし、最近の生理学医学賞の流れを考慮すると異色でもあるのです。
これまで人類学の領域から生理学医学賞を受賞する研修者は、ほとんどいませんでした。みなさんの記憶に新しいのは、2012年の山中伸弥先生のiPS細胞の生成方法の確立による受賞、そして2018年に本庶佑先生が、新しいがん治療である免疫療法につながるPD-1遺伝子の同定したことによる受賞だと思いますが、いずれも医学分野でかつ実用的な研究内容であり、様々な疾患の治療に応用できるいう点が特に評価されています。
でも今回のペーボ先生の受賞理由は、ちょっと異なります。人類学という学問そのもののアプローチの仕方を変えたこと、「古代ゲノム学」という学問体系を確立したことが評価されています。なんというか、ペーボ先生の研究者人生そのものがまるっと評価されたような受賞なんですねー。ね、すごいでしょ? ペーボ先生。
本書では、ドクターであったベーポ先生がいかにして人類学にのめ込んでいったか、様々なエピソードとともに語られています。
今、医学においても遺伝子解析は必須の手法ですが、ペーボ先生は目覚ましい遺伝子解析技術の進歩とともに研究者としてのキャリアを積んでいきました。ペーボ先生は、PCR法から次世代シーケンサーへと最新の分子生物学の手法を人類学のフィールドにどんどん取り込み、次第に、分子生物学の学問自体もリードしながら人類学と分子生物学と医学を重ねていくような取り組みをしていくのでした。つまり、ペーボ先生の研究の流れを追えば、分子生物学の進歩のプロセスが見える! 本書を読んでわたしがいちばん驚いたのがそこでした。ペーボ先生、すごすぎるぞ~。
他にもスーパーで買ってきた子牛のレバーで「ミイラもどき」を作ったこと、私生児だったというやや複雑な生育環境(密かに二つの家庭を持っていたお父様も実はノーベル賞を受賞)、男性の恋人がいたがその後、魅力的な女性研究者を友人から奪った略奪婚の経緯、研究のために世界各国を渡り歩く精力的な研究者である一方で、禅に関心を持つナチュラリストなどなど。
とにかくちょっとドキドキするエピソードが満載の本書を読めば、ペーボ先生ファンになること請け合いです!
投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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