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2024.11.14
2024.11.14
研修医レベルを高校生が?!「乳がん診断体験セミナー@広尾学園」
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広尾学園高校では、毎年けやき祭の振り替え休日を使っての「乳がん診断体験セミナー」が恒例となっています。おしゃべり病理医こと小倉加奈子が広尾学園で病理診断を体験するセミナーを開始したのは約10年前のこと。そこから少しずつブラッシュアップを繰り返し、コロナ後に再開してからは、高校2年生限定の超ハイレベルなセミナーに進化してきました。

いったいどんなセミナーなのか──

レベルとしては、研修医が取り組んでも十分に勉強になるもの。そのため、参加予定の生徒さんには乳がんについての事前学習をお勧めしています。

今年は、22名の生徒さんが参加してくれました。セミナーは1日がかり。最初の1時間半ほどの講義は、医学部で学ぶ内容から研修医レベルまでの乳がんに関する専門性の高い医学知識を無謀にも詰め込んだ内容です。

ここ数年、乳腺外科医(現・佐久総合病院にお勤め)の小坂泰二郎先生が講師のひとりとして参加してくださっています。小坂先生からは、乳がんの診療の流れについての説明があり、おしゃべり病理医は、乳腺の組織学的な特徴(医学部1,2年生の内容)、がんとは何かといった病理学総論の話(医学部2,3年生のレベル)から、乳癌の病理診断の重要エッセンス(医師国家試験レベル)までを超特急で解説します。

挨拶直後、フルスロットルで講義を進める乳腺外科医の小坂先生

笑顔なのに、話している内容は高校生に手加減なし

けやき祭明けの疲れが残る生徒さんであっても、容赦のない内容…。必死で生徒さんも話にくらいついていきます。

実際の乳がんの診断は、しこりの部分に針を刺して、がんが疑われる部分の組織を採取して行われます。これを「針生検」といいますが、乳房に見立てた鶏むね肉(がんに見立てたオリーブの実が仕込まれている)を小坂先生が用意してくださり、超音波で観察しながらオリーブめがけて針を刺してみる、という実技も行います(これはもはや研修医レベル)。

オリーブの実が仕込まれた鶏肉。下に見える黒い細長いものが針生検によって採取された鶏肉とオリーブの実の一部。みんなけっこう腕が良いです。真ん中には針生検の針、右上には超音波のモニターそして、もっとも高価なのが真ん中上の超音波プローベ(毎年、キャノンメディカルの方に機器を無償で貸し出しいただいています)

針生検に挑戦する生徒さん。プローベを垂直に鶏肉に当てて、モニターで針の進入方向を確認しながら狙いを定めます。初めてと思えないほどの手つきの良さ

針生検の実技をグループ別に行いながら、並行して、生徒さんは2~3人のグループに分かれて、バーチャルスライドを用いて病理診断を行います。配布されたプリントとつい先ほど聴いた超特急の講義の内容を思い出しながら、病理診断に向かいます。生徒さんの顔つきは、もはや病理医そのもの。

パソコン上に顕微鏡の像を映し出すバーチャルスライドによってグループみんなで同じところを観察しながらディスカッションが進められます

乳がんは、がんの細胞の特徴によって大きく4つのサブタイプに分かれています。ルミナールAタイプ、ルミナールBタイプ、トリプルネガティブタイプ、HER2タイプの4つになりますが、それぞれ、がんが大きくなるスピードや増殖のメカニズムが異なるため、抗がん剤の種類も変わってきます。乳がんの病理診断は、そのサブタイプを正確に見極めることも極めて重要です。

まもなく病理診断の結果について、病理医しんしんが解説を行い、いよいよ生徒さんは病理医から乳腺外科医へと変身し、治療方針を決める検討に入ります。どんな治療が患者さんにとって適切であるか、グループで手分けをして専門サイトなどを検索しながら議論を進め、午後のカンファレンスに向けてプレゼンテーションの準備を進めます。悠長にお昼を食べている時間もほとんどありません。

バーチャルスライドを前方モニターに写し、病理所見の解説をする病理医しんしん

さて、その悩ましい症例とはいったいどういう悩ましさがあるのでしょうか。一例をご覧にいれましょう。

・42歳の女性。ルミナールBタイプの乳がん。手術でリンパ節転移が見つかり、再発の可能性があるが、不妊治療中。不妊治療を先行するか、抗がん剤治療を行うべきか。

・56歳の女性。進行の早い予後不良のトリプルネガティブタイプの乳がんに罹患しており、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の可能性もある。遺伝子検査を受けると使える抗がん剤があるが、結婚間近の娘がいて、遺伝子検査の結果が影響することを心配している。

上記のような感じです。同じサブタイプの乳がんであっても、進行具合が変わるだけでなく、患者さんやそのご家族の人生観や価値観、そして置かれている状況も異なる。乳腺外科医がふだんから悩んでいるような状況をそのまま高校生に考えてもらっています。

症例カンファレンスの様子。グループごとに発表を行いますが、ドクターから容赦のない質問や指摘が

午後からの「症例検討カンファレンス」は、グループごとに生徒さんが治療方針についてまとめたことを発表します。ドクター側から手加減のない質問や指摘がありますが、それらにも精いっぱい答えていく生徒さん。8チームの中から、最優秀チームが決まりました。副賞は、順天堂大学練馬病院の見学です!

いかがでしたか。医学知識や医師としての経験をただお話するだけではなく、当事者意識を持って医療の実際を体験してもらう。医師を志し、医学部を目指す高校生に医療現場のリアルを知ってもらうこと、体感してもらうことはとても貴重であると考えています。

とはいっても、医学部生も研修医もきっと驚きのレベルの内容で、広尾学園の高校生の医療への好奇心や探究心、そして医学部に進学したいという熱意によって支えられているセミナーであり、広尾学園の中学からの教育方針のなせるわざです。

正解のないものに向かう勇気やレベルが高くてついていけなくとも食い下がって理解を深めていこうとする粘り強さは、実際に、生徒さんが大学に進学してからとても重要になる能力です。医学部以外であっても、生徒さんの頑張りは未来につながるだろうなと私たちまで勇気をもらえるセミナーとなっています。

最優秀チームも決まりました! みなさんお疲れ様でした~!最後は素敵な笑顔でパチリ

 

■追伸

広尾学園と順天堂大学は2024年3月に高大連携協定を結び、様々な教育活動を展開しております。関連記事もご覧くださいね!

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