看護は魂にふれる革命なのだー!
帯にでかでかと書かれた熱いメッセージ。ロック調の文体で綴られた異色の伝記『超人ナイチンゲール』は、医学書院の「ケアをひらく」シリーズの中の一冊です。
著者は、鬼才文人アナキストと呼ばれている栗原康さん。アナキズム研究をご専門とされる文筆家です。前回紹介した『他者の靴を履く-アナーキック・エンパシーのすすめ』ともつながるような本のテイストと内容であり、ブレイディみかこさんも推薦!と、帯に添えられています。
幼い頃、絵本やアニメなどでナイチンゲールのお話は見聞きしたことがあり、「すごいかんごふさん」「白衣の天使」というイメージがありましたが、その生涯をあまり詳しく知りませんでした。ですので、本書をたまたま本屋さんで見つけた時は、タイトルの「超人」にはじまり、目次の「ハンマーをもった天使」だとか「白衣じゃねぇよ、黒衣だよ」といったマッチョな言葉たちに驚き、気がついたらレジに連れて行っていたのでした。
◆白衣じゃねぇよ、黒衣だよ
実際、私の勝手なイメージの優しく可憐な雰囲気とは別人のごとく、ナイチンゲールは、とんでもなく強くてたくましい!のでした。ロック調で伝記を書きたくなる気持ちもわかります。19世紀当時の「女は家に引っ込んでろ」「貴族が働くなんてみっともない」といった常識にも負けず、軍隊や政府といった組織の建前や無関心にも負けず、信じられないほど不潔で危険で過酷な3Kの極みといった兵舎病院の環境にも負けず、とにかく看護の在り方を徹底して模索し続けたツワモノなのです。
白衣じゃなくって黒衣ってどういうこと?と思った方は、とにかく本書を読んでみてほしいのですが、どういうことか簡単に触れておくと、実際、ナイチンゲールは黒衣で看護にあたっていたのだとか。彼女自身がのちに「わたしは地獄をみた」と記したように、彼女は、何千人もの兵隊の死を看取り、その黒衣もまるで死者の弔いのための服装のようだったのだとか。また、軍や教会など様々な抵抗勢力に負けず、なにものにも染まらないナイチンゲールの生き方がまさに、「白衣じゃねぇよ、黒衣だよ」の所以なのです。
◆ナースコールも配膳用エレベーターも、そして、統計学も!
今、私たちが当たり前に活用している医療現場のあれこれの中にもナイチンゲールの発明品はたくさんあります。患者対応しやすいように入院患者一人ひとりにベルを用意したこと、不衛生にならないようにシーツの交換を徹底したこと、看護師の配膳の負担を軽減するためのリフトの導入などなど、ナースコールもシーツ交換の徹底も配膳用エレベーターもすべてナイチンゲールの発案から現在にいたります。
さらに、ナイチンゲールが考案した病院の設計図は、真ん中に看護師の詰め所を配置し、入院患者を一望できるような形になっており、これが現在もナースステーションとして受け継がれているわけです。
さらに、統計学にむちゃくちゃ関心の高かったナイチンゲールは、クリミア戦争時の兵舎病院における死者数の推移などを数値で見える化し、統計学を駆使したうえで、お役人を説得する資料を作成したのだとか。
こういった実に様々な医療における現在の“当たり前”が、ナイチンゲールの発明や姿勢に端を発しているというのは、本当に感動ものです。
◆そして何よりケアの精神も
ナイチンゲールは、『看護覚え書』の補論でこのように述べています。
わが愛する姉妹よ、教育の仕事はおそらく例外であろうが、この世の中に看護ほど無味乾燥どころかその正反対のもの、すなわち、自分自身は決して感じたことのない他人の感情のただ中へ自己を投入する能力を、これほど必要とする仕事はほかに存在しないのである。
看護にわけなどいらない。ナイチンゲールのケアの精神を、看護師に限らず医療従事者全員が、今、ふたたび学び直す必要があるかもしれません。
秦直也さんのイラストもとても素敵です。ごっついナイチンゲール伝、読んだら元気になりますよ!
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投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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