アメリカの次期大統領は、ドナルド・トランプさんに決まりましたね。2季目のトランプ大統領がどんな政策を打ち出していくかは未知数ですが、国内外の人々の分断がさらに進むのではないか、ガザの戦争はますます激化するのではないか、といったことが言われています。
中高生のみなさんは学校で歴史の授業を受けることがあると思うのですが、歴史の授業はだいたい戦争の歴史といってもいいほど、日本史だろうと世界史だろうと戦争に溢れていますね。どうして人間は争いばかりするのでしょうか。
それをゴリラ目線で考えてみようよ!という本を今日は紹介します。『争いばかりの人間たちへ-ゴリラの国から』(毎日新聞出版)です。著者は山極寿一さん。前京都大学総長でいらっしゃっる総合地球環境学研究所の所長。霊長類学・人類学者、ゴリラの先生であります!
本書は、そんな山極先生がこれまで雑誌などに寄稿されていた文章をまとめたもの。本書のための書き下ろしの章もありますが、ほとんどは独立した文章になっています。目次には実に興味をそそるタイトルが並んでいるので、気になる章からつまみ食いのように読んでもいいのではないでしょうか(きっと山極先生も怒らない)。
◆ゴリラの国からの提案
山極先生がこの本をまとめられた理由は、平和で平等な社会を実現するため。人間がどこで間違ったのかを再度考察し直し、慈愛に満ちたゴリラの国から提案するとしています。
ゴリラは、長い間(100年以上もの間)、暴力的で好戦的な動物と見なされてきました。あの、胸を手のひらで勢いよくたたく「ドラミング」も攻撃のサインと勘違いされ、『キングコング』などの映画で暴力的なゴリラが描かれて長い間、誤解され続けてきたのだとか。
でも、実際ゴリラは仲間との協調を大事にし、友愛的な動物だということを山極先生が長い間、ゴリラと生活を共にするなかで知ったといいます。
◆老いの美しさ
山極先生がゴリラに惹かれた理由のひとつに、 “老いの美しさ”をあげられています。オスもメスも子ども達に囲まれ、敬意を受けて老いていきます。
ゴリラのオスは子どもに頼られるようになるとしだいに背中の毛が白銀色に染まります。これを「シルバーバック」と呼びますが、年を取るほどに白銀色の毛が腰や脚にまで広がり、暗い森の中で光り輝くようになるのだそうです。ちょっと見てみたいですよね。老齢になるほど美しさが増すというのはなんともうらやましい限りですし、超高齢化社会が到来してくる日本においては、どう美しく老いるか、また、高齢者を社会の一員として受け入れていく柔軟な社会の構築というのがこれからますます求められると思います。
まずは、ここにゴリラから学ぶことがありますね。アンチエイジングの秘訣もありそうです!
◆共感力と敵対心
ゴリラのオスは、子育てを一手に引き受けていきます。喧嘩がはじまると仲裁に入り、強いものが弱いものいじめをすることを制するのです。子どもたちとよく遊んであげながら、その成長を温かい目で見守りつつも共感力が身につくようにしっかりとしつけもする。
オスのゴリラの教育の在り方は、さきほどの老いの美しさにもつながりそうです。
ゴリラを含めた類人猿とヒトには数多くの共通点があります。共感力もそのひとつですが、ヒトの場合は、言語の発達によってさらに共感力を育てていきながら社会を大きくしていきます。ただ、長い進化の過程で発達させてきた共感力を、敵意に反転して利用し、自分たちの権利や利益を得るための手段とすることにもつながったと山極先生は指摘します。
仲間同士の連帯意識を育てるために、共通の敵を作って団結する仕組みを作っていきます。これが今でも戦争の基本的な考え方として力を発揮していることはすでに今の国際情勢を見る限り悲しいかな、事実であると言わざるをえません。
そろそろ人類も、仮想敵を作って連帯する以外の共感の道を探るときが来ているでしょう。そのためにもゴリラの国から学ぶことは少なくなさそうです。
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投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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