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文系ウメ子ちゃんねる COLUMN
2025.01.13
2025.01.13
栄冠はどのゲーム!? 「医学をみんなでゲームする2」クロージングイベント開催
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2024年12月21日(土)、MEdit Labワークショップ「医学をみんなでゲームする2」のクロージングイベントが開催されました。クリスマス間近の貴重な土曜日、順天堂大学に高校生から保護者さん、そしてプロのゲームクリエイターまで60名が参集。半年におよぶカリキュラム終了を寿ぎ、そこから生まれた8つのゲームに白熱しました。

この記事では、クロージングイベントの一部始終をレポートします。

▲会場はMEdit Labワークショップではお馴染みの順天堂大学お茶の水キャンパス7号館。白亜のエントランスに、いまが盛りの紅葉が映えます。

 

■今日のイベントは一味違う

会場の小川講堂に入ると、最前列には緊張の面持ちの8名。いったい、今日は何が行われるのでしょう。いよいよ、イベントが始まります。

 

■小倉加奈子先生&發知詩織先生登場!
〜半年のカリキュラムを20分で振り返る〜

まず登場したのは、MEdit Lab主宰・おしゃべり病理医こと小倉加奈子先生と、病理医しんしん先生こと發知詩織先生。本日の司会です。

7月のオープニングイベント以降、70名がオンライン上でおこなうWEBワークに挑戦。ワークは、12のお題に答えることで医学にかんするゲームをつくるという内容。なかなかハードなワークでしたが、めでたく22名が修了を迎えました。

 

小倉先生が話し始めます。
「MEdit Labでは、医学を学ぶだけでなく『学び方を学ぶ』ことを大事にしています。みなさんが取り組んでくださったWEBワークでも、たんに回答することだけではなく、回答するまでのプロセスを振り返ってもらうことも大事にしていました」。

WEBワークの目的はもちろん、医学にかんするゲームをつくることですが、それは表のテーマ。じつは、裏テーマには、自分の知らないテーマを学んでいく方法を身につけるというものだったのです。(詳しくはこの記事で:https://meditlab.jp/news/6024/ )

 

半年間、いったいどんなカリキュラムを繰り広げてきたのか。小倉先生としんしん先生が、お題に込めた意図をスピーディーに明かしていきます。(実際にワークの内容についてはこちらの記事で:https://meditlab.jp/news/6027/

■いよいよ本日のメインコーナー
MEdit G1グランプリ開催!

カリキュラムの振り返りが終わると、いよいよ本日のメインコーナーの始まりです。題してMEdit G-1グランプリ。MEdit Labワークショップを経て生まれたゲームのなかから、8作品がエントリー。8名の企画者たちが、1名ずつ壇上にあがり、自分のゲームの魅力をアピールしていきます。

おしゃべり病理医小倉先生が「毎回のお題の振り返りがすばらしかった」と絶賛したのが、エントリーNo.4朧さん。

ストレスをテーマにカードゲームを考案した朧さんはワークショップについて「これがゲームになるんだろうか?って不安だったけれど、小倉先生からのフィードバックを受けて試行錯誤していると自分でもゲームが作れて楽しかった」と感想を教えてくださいました。

▲朧さんの名回答については、この記事でも取り上げています。https://meditlab.jp/news/6800/

G1グランプリにエントリーした8名に対しては、一人ずつ、順天堂大学のドクターがゲスト審査員としてコメント。小川先生は皮膚科医として、小松先生と福島先生はパリオリンピックに帯同もしたスポーツドクターとしての知見から、ドクター目線でゲームを評価します。

▲ゲスト審査員の先生方は、写真左から
小川尊資先生(順天堂大学医学部 医学教育研究室 先任准教授)
小松孝行先生(順天堂大学医学部 スポーツ医学研究室 准教授)
福島理文先生(順天堂大学医学部 スポーツ医学研究室 准教授)

誰もが知っている「花粉症」を入り口に、花粉のアレルゲンと構造の似た野菜や果物でもアレルギーが起こる「交差反応」をテーマにゲームをつくったのは、ボードゲーム編集者の石神康秀さん(写真右)。皮膚科医の小川先生からは「医学生にも医局員にやってもらいたい!」と熱のあるコメント。

WEBワークだけでなく、リアルで開催されたMEdit Cafeというイベントにも参加したはるさんは、「他校の生徒さんやプロのゲームクリエイターの方と関われてすごく楽しかった」とワークショップ全体を振り返りました。

G1グランプリエントリー者8名のなかには、石神さんのほかにも「ぷよぷよ」や「はぁって言うゲーム」など多数のゲームを世に送り出したプロのゲームクリエイター・米光一成さん(写真左)も。米光さんがテーマにしたのは「医療ミス」です。

「どうしても『お医者さんはえらい』と神聖視していたけれど、たびたび病院に行くとお医者さんも人間なんだとわかってきました。人間なのだから、お医者さんもうっかりミスをする。かといって、ミスを責めても仕方ありません」

「僕は、仕組みを考えるのが好きなので、現場で起こる『うっかり』を共有して、それが起きる仕組みを考えるほうが安心できる病院になるなと思ったんです。『うっかり』を防ぐための仕組みはすごく面白くて、それを僕が聞きたくて作ったようなゲームです」。

G1グランプリでは、ストレスから医療ミスまでさまざまなテーマで作られたゲームの開発秘話が語られました。病理医しんしんこと發知先生は「同じワークに取り組んだのに、ここまで多彩なゲームが生まれたことが嬉しい」と、修了者たちを称えました。

■白熱のテストプレイ!

8作品のプレゼンが終わると、場所を変えて、実際にテストプレイ開始です。8グループに分かれ、自分が気になったゲームで遊びます。

◆「はぴはぴケアバトル〜心を癒やす冒険〜」(りーさん)

高校生のりーさんが考えたのは、患者さんの心のケアを考えるコミュニケーションゲーム。「病院食が口に合わない」とか「大手術前夜」とか「お化けが怖い」などのトラブルを抱えた患者さんに対して、配布されたカードのアイテムを駆使してどんなケアが可能を考えていきます。手持ちのアイテムでトラブル脱出法を考える「キャット&チョコレート」に似た、発想力が試されるゲームです。

◆「REST&RISK」(ふっく船長)

順天堂大学医学部生でMEdit Lab学生部のメンバーでもあるふっく船長は、医学部の授業で学んだ「睡眠」をテーマにゲームを考案。このゲームで遊ぶことで、睡眠の質を高めるための行動を学べるほか、自分の生活習慣も振り返ることができます。

審査員の小松先生は「医学を勉強していると専門的になりやすいが、それをわかりやすいでゲーム化できている」と評価しました。

◆欲張りらいふ(黒山羊さん)

将来は医師にと夢を語る黒山羊さんが作ったのは、生活習慣病をテーマにしたUNOのようなカードゲーム。「飲酒」や「夜ふかし」などの欲望カードを集め、欲張りな楽しい人生を送ろうとするなかで、生活習慣病を回避しながら、いかに健康度を維持していくかをシミュレーションします。

「飲酒」カードは1枚だととくにダメージはないが、2枚集まると二日酔いになるとか、「宴会」状態のカードと合わせると他の人にも飲酒ダメージを与えることができるなど、複雑なルールが魅力。200枚近いのカードを自作してくれました。

◆石神さん「クロス・プレゼント〜たのしいプレゼント交“差”会」

アナログゲームの編集者としてゲームづくりに関わる石神さんは「自分でゲームをつくるのは大変でした」と笑いながら、プロらしい複雑なルールのゲームを考案。メロンや桃などのプレゼントカードをもらうと得点が獲得できるが、自分がアレルギー反応を起こすと減点されるという戦略ゲームです。ゴキブリポーカーのような駆け引きがスリリング。

おしゃべり病理医小倉先生は、「複雑なルールにもかかわらず、カードに使い方が書いてあるのですぐに遊べるのがすごい」とプロの技に注目。

◆ならべいど(はるさん)

おしゃべり病理医小倉先生が「すごく好きなネーミング」と語ったのが、はるさんによる「ならべいど」。七並べとファーストエイド(応急手当)を掛け合わせたゲーム名のとおり、応急手当ての正しい行動を順番どおりに素早く並べる対戦型カードゲーム。

「倒れている人(呼びかけても返事がなく、呼吸は普段どおりでない)」「蜂に刺された(喉の違和感はない)」などの状況に応じて、「救急車を呼ぶ」「患部/体を冷やす」「AED」などの応急手当てカードのなかから正しいものを並べます。

審査員の先生方ももちろんテストプレイに挑戦。順天堂ドクター2名+順天堂医学生チーム VS 女子高校生3名チームのガチンコ勝負です。圧勝かと思われた順天堂チームは意外にも苦戦。「ぜんぜん勝てなかった……」と本気で悔しがるドクターチーム。考案者はるさんは、「知識があるだけで勝てるゲームではつまらないから、運要素も入れたんです」とニヤリ。

◆Neutralizer – 中和者 - (朧さん)

スポーツドクター小松先生(写真右上)が興味深そうに見つめるのは、朧さんによるカードゲーム。プレイヤーの手元にはは、レベル1からレベル7までのストレスカードや癒やしカードが配布されています。前のプレイヤーが「レベル3のストレス:多忙」というカードを出したら、次のプレイヤーはレベル3以上の癒やしカード(推し活、アニマルセラピー、睡眠など)を場に出して、ストレスを中和していきます。手持ちのカードを、すべて場に出した人が勝ちです。

「ふだん、生活するうえで切っても切り離せないのがストレスなので、ストレスをテーマにしてみました」と朧さん。病理医しんしんこと發知先生は「手元にストレスカードがたまるとイライラしてくるし、場にストレスカードを出せるとスッキリする。扱っているテーマとゲーム形式がとてもフィットしているいい例ですね」と絶賛。

◆必須アミノ酸ゲット(しゅうぜさん)

日常生活に欠かせないものといえば、食事。食べ物をテーマにしたゲームも誕生しました。考案者は、医学部図書館の司書として働くしゅうぜさん。テーマ選びをしていたときに、息子さんから「アミノ酸ってどう?」と提案され、調べてみたら20種類あるアミノ酸のうち9種類は体内で生成できないことを知り、ゲームにしてみたのだとか。遊ぶだけで、「この食べ物にこのアミノ酸が入っているんだ!」と知識も身につくゲームです。

◆ずっこけホスピタル(米光さん)

テーブルのまわりに人だかりができ、おしゃべり病理医小倉先生が大爆笑しているのは、プロのゲームクリエイター米光さんによる「ずっこけホスピタル」。ルールはきわめてシンプル。「人工呼吸器のヒヤリハット」「麻薬管理ヒヤリハット」など、医療機関で起こり得るさまざまな種類のヒヤリハットのなかから1枚を選び、プレイヤーはそのテーマで自分が経験したことのあるヒヤリハット体験を書き出して発表する、というもの。

この日は、ドクター3名と薬剤師さん1名でプレイ。「倫理や思いやりのヒヤリハット」というカードが選ばれ、良かれと思ったのにトラブルになりそうな体験談をそれぞれが話しました。「患者さんの同意なく、家族に病状説明してしまった」という体験談が場に出ると、ドクターからは「あぁ〜」という共感の声が漏れました。ピンと来ていない外野の参加者に対して、ドクターたちは、かつては患者本人にがん告知をしないということもあったけれど、いまはかならず患者さんに説明をするという病院のルールが説明され一同ふむふむ。

「男気を見せてマウストゥマウスで人工呼吸」という例が出たときは、「ドラマとかではよく見ますが、それってダメなんですか!?」と外野から質問が飛びました。感染の危険があるので、マウスピースをかならずつける必要があること、マウスピースは救命講習会などに参加すれば無料でもらえることなどが伝えられ、遊びながら新しい知識をみなが学ぶ場となりました。

 

■栄冠はどのゲームに!?

以上8つのゲームのなかから、参加者は1つのゲームを選んでスマホから投票。審査員たちは別室で審議。厳正なる選考の結果、4作品にG1グランプリ特別賞が授与されました。 

観客賞には、接戦のすえ黒山羊さんの「欲張りらいふ」が。WEBワークだけでなく、全4回のリアルワークにも参加したしゅうぜさんには皆勤賞が授与されました。

順天堂大学のドクター3名が審査員賞を贈ったのは、りーさんの「はぴはぴケアバトル」。ゲスト審査員の小川先生は「医療者全員が考えるべきテーマを、誰もが会話を通じて楽しめるゲームに仕立てたところが非常に優れている」と審査員評を述べました。

MEdit賞には、はるさんの「ならべいど」が選出されました。發知先生からは、「応急処置はスピードが大事。カードを早く並べるというゲーム形式とテーマがマッチしていたのがよかった」との高い評価。小倉先生は、「調べ学習を徹底的にして、正しい知識を組み入れた医学ゲームをつくるという誠実さがすばらしかった」とゲームづくりのプロセスを称えました。

小倉先生は、「高校生をはじめ、一般の方々に医学に親しんでもらうために、ボードゲーム作りが魅力的なコンテンツになっている」と、あらためて医学×ゲームの可能性を語り、イベントはお開きに。2023年度に引き続き、MEdit Labがお送りしてきた「医学をみんなでゲームする2」もこれにて幕を下ろしました。

MEdit Labでは、2025年度以降もワークショップを継続し、月1回のMEditカフェリアルイベントも実施する予定です。これからも、医学をみんなでゲームしていきましょう!

投稿者プロフィール

梅澤奈央
梅澤奈央
聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。