医学に効くほん!
医学に効くほん! COLUMN
2025.02.24
2025.02.24
図鑑ブームが「医史学」にも!『医学の歴史ひらめき図鑑』
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歴史は好きですか?

MEdit Labでは、歴史を学ぶことをとても大切にしています。歴史は文系で暗記科目だと決めつけてしまうのはもったいない。歴史は様々な史実の網目模様を観察しながら、想像力を鍛えたり、物事同士の関係性、原因と結果をロジカルに考える訓練にもなる学問です。だから実は、医師になる人は絶対勉強した方がいい科目なんですよね。

診療は、患者さんのからだの歴史を診ることにほかなりません。現病、既往、家族…。患者さんの不調の原因を解明するうえでは、様々な時間軸で患者さんの不調の歴史を明らかにしていく必要があります。

そうはいっても歴史では覚えることがいっぱいあるのは確かで、その因果関係を考察していく前に疲れてしまう方も多いのかもしれませんね。そんなみなさんには、自分が興味を持ったテーマの歴史から学んでいくことをお勧めします。今日は、医学の歴史でとってもとっつきやすい本を紹介したいと思います!

◆医学の歴史が図鑑に?!

最近は、哲学や心理学などのテーマも図鑑仕立てのものが増えてきたのですが、その中で医学の歴史をテーマにした図鑑が登場しました!『医学の歴史ひらめき図鑑 -柔軟な着想から結果を導くロジカルシンキング』です!監修は、解剖学者で順天堂大学の特任教授である坂井建雄先生。日本医史学会の理事長でもある坂井先生は、この本以外にも『図説 医学の歴史』や解剖学の教科書など多数の著書があります。

本書は、ポップな編集で、たくさんのイラストとともに歴史の流れがbefore/afterで解説されたり、さらに各章の歴史を大まかにとらえられるよう“HIRAMEKIチャート”という図がついており、歴史の流れを俯瞰できるようになっています。文字が多い本はちょっと・・・と敬遠する方にも手に取りやすい本です。

章のまとめ方も「身体を知る」「病気を知る」「身体を診る」「感染症に挑む」となっており、これらのテーマを切り口に年表もついており、細胞学、病理学、臨床推論、感染症学といった、現代の医学までの流れを捉えるうえで必要十分な歴史の大筋を理解できるようになっています。見た目はポップで軽いけれど、さすが坂井先生の監修で内容は意外に深いのです。楢木佑佳さんをはじめとした「株式会社スペースタイム」のみなさんの編集力にも注目です。

◆ロジカルシンキングは歴史で鍛えよう!

帯には、「歴史に残る問題解決の具体例から“ロジカルシンキング”の神髄を学ぶ」とあります。歴史上のどんな出来事が原因となり、どんな結果がもたされているか、丹念に分析することで論理的な思考力がつくでしょう。

さらに、私としては、ロジカルシンキングにとどまらず、小さな出来事がいくつも複雑に絡み合って、大きな歴史を作っていく “複雑系”の考え方の基本を理解するきっかけにもなるのではと思っています。複雑系というのは、ごく小さな出来事がいくつも複雑に関係を作る中で、大きなうねりを作っていく現象のことです。単純な原因と結果におさめることができないような様々な事象がからみあうものを意味します。

例えば、ロバート・フックが細胞を発見したのは、1665年です。細胞を発見できたのは、1590年代に顕微鏡が発明されたから。顕微鏡を発明したのはイタリアの眼鏡職人。当時、眼鏡市場がかなり大きくなっていた時期。その理由は、活版印刷技術の発明によって印刷された聖書が普及し、市民の老眼が増えたから。このように、細胞の発見という医学の歴史には、活版印刷発明という医学とは一見関係のない歴史がからみ、さらにはここに書き出した以外の見えない様々な事柄が複雑に関係しています。他も然り。

ちなみに今は、細胞や遺伝子のレベルで病気を解明するのが当たり前になりましたが、その基礎となる「細胞病理学」の提唱したのがドイツの病理学者フィルヒョウ。1858年のことでした。他にもほぼ同時期に細胞が分裂することが発見されたりと細胞にまつわる様々な医学研究が急速に進むのが19世紀後半。細胞が発見されてから200年弱経ってからのことです。

このように歴史をさかのぼってみると、現代の医学研究がどういった医学的発見、あるいはその他の技術や文化の発展を礎としてきたのかが見えてきます。

ひとまず、ちょっと暇な時にぼんやり開いてみるのはいかがでしょう?

 

◆参考URL◆

順天堂の沿革|順天堂大学

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投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。