病理検査の結果は他の臨床検査とは異なり、「病理診断」として臨床医に報告されます。病理診断では、がんなのかどうか?炎症や感染があるのか?治療が効いているのか?といった病気の状態がわかります。細胞や組織を採取して、それを直接観察するからです。
さて、この「病理診断」に臨床検査技師はどのように関わっているのでしょうか。私たちは、検体として届いた細胞や組織から、美しい病理標本をつくっています。私たちが作製した病理標本を、病理医が顕微鏡で観察し、患者さんの身体で何が起きているのか、細胞や組織の変化を詳細に観察しながら診断をしているのです。
顕微鏡で観察した正常な胃の粘膜
つまり、病理診断には病理標本が不可欠であり、出来栄えが悪ければ診断にも影響を及ぼす可能性があります。私たちは、病理医の正確な診断に役立つ病理標本を作製しなくてはいけないという責任をもって、作業に取り組んでいる“職人”なのです!
病理標本の作製手順のなかでも、「薄切(はくせつ)」は職人技が光る作業の一つです。これはパラフィンと呼ばれる、キャンドルやクレヨンの原料にも使われる物質に、病理医が指定した組織を埋め込み、冷やし固めて作られたブロックを4㎛(マイクロメートル)の薄さに切っていく作業を指します。4㎛という数字はなかなかイメージが難しいですね…髪の毛の断面の直径は太い方で約100㎛なので、その20分の1以下という薄さになります。ちなみに皆さんの血管を流れる赤血球の直径は8㎛なので、なんとその半分です!
パラフィンに埋め込まれた臓器の一部(パラフィンブロックといいます)
4㎛の薄さはこのくらい
薄切にはミクロトームという専用の機器を使用します。このミクロトームという機器ですが、現在日本で日常的に使われている「Jung型ミクロトーム」は1886年に誕生しました。それから今日まで改良や自動化は進んでいますが、約140年前から形をあまり変えずに受け継がれていることを考えると、先人たちの偉大さをひしひしと感じます。
薄切の様子
さて、この薄切という作業、これがなかなか難しいのです。温度や湿度も影響し、動かす速度や検体の硬さによって厚みが違ってガタガタしたり、傷がついたり穴が空いたりしてしまいます。4㎛の薄さで均等に薄切できるようになるまでは、とにかくたくさん切って練習を重ねる必要があります。それでもやっと「病理医に提出できる標本かな?」といったレベルです。私も薄切の練習を始めたころは、先輩たちの技術を盗むのに必死でした!同じ機械を使って同じように手を動かしても、なぜか同じように切れない…これが職人技か、と悔しい思いをたくさんしました。そんな私も、今では速く美しい標本を作製することをモットーに、薄切に勤しむ毎日です。時にはどうしても薄切が難しい検体と、にらめっこをしてしまいますが…
こうして、私たち臨床検査技師が毎日技術を磨き、診断に適した標本を作製するために奮闘していることを、みなさんに少しでも知ってもらえたら嬉しいです。
投稿者プロフィール
- 看護師の姉を追うように医療の世界へ。臨床検査技師国家試験合格後に、緊急検査士、細胞検査士と、専門を極めていくド根性ぶりとふわっとした雰囲気がギャップ萌え。好きなことは映画鑑賞とガチャガチャ。
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