ふしぎな医学単語帳
COLUMN
2023.05.01
2023.05.01
にゃお~ん、いや~ん「ネコひっかき病」
MEdit Labの記念すべきワークショップ開催(あと数日申し込みフォームを開けておきますね。滑り込み応募のラストチャンスです!)のお知らせから、「文系ウメ子ちゃんねる」が連打されていましたが、みなさん楽しんでいただけましたか。これからも文系ウメ子ちゃんが非医療従事者代表として、ワークショップのレポートをはじめ、ウェブワークにもどんどん登場してくれますので、お楽しみに!
さて、突然ですが、そのウメ子ちゃん。大の猫好きであります。MEMBER紹介のページは、猫のふみちゃんと一緒がいいということで、ふみちゃんの似顔絵も描いてみました。
一方、おしゃべり病理医は、もふもふの真っ白な毛の犬(ビション・フリーゼ、4歳♂)を飼っています。だからと言って、「だんぜん犬派です!」というわけではなく、かなり重症の猫アレルギーということもあって、猫を飼うことができないのです。野良猫ちゃんに引っかかれたことが一度だけあって、それからというもの、猫を飼っている仲良しのいとこの家に行くと、とたんに猛烈な鼻水や目のかゆみや蕁麻疹が出るようになってしまったのです。
実は「ネコひっかき病」という病気が実際にあります。英語名もそのまんま「cat-scratch disease」。猫アレルギーとは異なる病気ですが、猫にひっかかれたり、噛まれたりして、ネコノミの中に含まれるバルトネラ菌(Bartonella henselae)が、創口から侵入して起きる感染症です。
ネコノミは子猫に多く寄生しているといわれています。日本においては10代と40代の女性の患者さんが多く、おそらく猫を飼育する機会が多いからではないかと考えられています(子猫ちゃんを愛でるお母さんと娘さんを想像しました)。
ネコひっかき病は、猫に引っかかれたり噛みつかれてから数日~2週間後くらいに、受傷部分の皮膚に虫刺されに似た発疹が出現します。その後、脇の下や首のリンパ節が腫れて痛みます。リンパ節の腫れは、数週間から長いときは数か月続くこともあり、発熱や悪寒や頭痛といった風邪のような症状があわさることもありますが、自然に治ります。ただし、免疫機能が弱まっている場合は、重症化することがありますので、免疫力の落ちた方が猫を飼う時は、噛まれたり引っかかれないように注意することが必要です。
おしゃべり病理医は、これまでに何回か、腫大したリンパ節の病理診断でこの病気に遭遇したことがあります。先ほどお話したように、この病気はリンパ節が比較的長いこと腫れるために、リンパ腫などの悪性の病気が疑われて、リンパ節を摘出して病理検査を行うことがあるからです。
病理医なら誰でも持っているテキスト
(深山正久・森永正二郎[編集主幹]『外科病理学』第5版・文光堂)にも
「ネコひっかき病」は写真付きで掲載されています(31「リンパ節-非腫瘍性疾患-p.1292)。
顕微鏡で観察すると、リンパ節の中にネコひっかき病に特徴的な病巣が確認されるのですが、診断に一番大事なのは、「ネコにひっかかれたことがあるか」という出来事なんですね。病理診断だけでは、断定ができませんので、私たち病理医から「ネコに引っかかれたエピソードはありますか」と主治医の先生に伺うこともあります。
猫に引っかかれたからといってすぐにこの病気にかかることはありませんが、猫ちゃんをつねに清潔にし、ノミがつかないようにすること、また、もしも猫と遊んでいて誤って怪我をした時には、早めに受傷部位を洗い流すことが大変、有効です。
だんぜん猫派!のみなさんは、この病気の基礎知識を頭に入れつつも、恐れ過ぎず猫ちゃんとの楽しい日々をお過ごしくださいね!
投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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