診療すごろく COLUMN
「MLのコラム読みました!」
ある日の夕方、母からこんなメッセージが届きました。仕事終わりだった私の頭には「悪性リンパ腫: malignant lymphoma」がパッと浮かびました。おしゃべり病理医・小倉先生には「メーリングリスト: mailing list?」と言われました。みなさんお察しの通り、この時母は「MEdit Lab」の意味で使っていました。アルファベットを打つのに時間がかかるので、少しでも文字数を減らしたかったそうです。
話すのも書くのも楽になる略語。でも気をつけないと今回のように意味が通じなかったり、誤った解釈をされてしまうこともありますよね。
●病院でも略語は欠かせません!
実は、医療現場でもたくさんの略語がとびかっています。CTやMRIもそのひとつです。「CT=コンピュータ断層撮影法(Computed Tomography)」「MRI=磁気共鳴画像診断装置(Magnetic Resonance Imaging)」と、日本語でも英語でも正式名称が長いので、日常業務においては略称がとても便利です。
一番多いパターンは英訳を略したものです。
BP(血圧:blood pressure)、BT(体温:body temperature)、DM(糖尿病:diabetes mellitus)、HT(高血圧:hypertension)、PH(既往歴:past history)はよく使われています。
しかし、アルファベットだからといって英語由来とは限りません。
代表例は胃癌です。英語で言えば、「gastric carcinoma」なので、GCなのかと思いきや、多くの病院で「MK」と略されます。ふしぎな医学単語帳でも取り上げたドイツ語の名残りがここにあり、ドイツ語での胃癌「Magenkrebs」が由来です。肺癌でもドイツ語の肺癌:LungenkrebsからLKと使いますが、大腸癌をCKと書く人は、今ほとんどいないと思います。昔は多くの癌をドイツ語の「Krebs」で表していたようですが、今は一部にしか残っていません。
一方で、現代になって誕生した略語もあります。最近の手術方法の略語では、頭に「L」「R」とつくことが増えてきました。左・右…ではなく、「腹腔鏡下: Laparoscopic」「ロボット支援下: Robot-assisted」の略です。時代によって使われる略語も刻々と変化しているのですね。
●取り扱いには要注意!
初めて見た時に「MK=胃癌」はなかなか思いつかないですよね。昔はがんの告知が一般的ではなかったので、婉曲方法としてドイツ語略語を使用していた経緯もあるようです。しかし、チームで患者さんを支える現代においては、スタッフの誰がみてもわかるカルテであることが大切です。その点では略語の使い方には気をつけないといけません。
例えば「MM」という略語。血液のがんである多発性骨髄腫(multiple myeloma)、皮膚にできることの多い悪性黒色腫(malignant melanoma)、アスベストが原因となる悪性中皮腫(malignant mesothelioma)と、全く異なる3つの悪性腫瘍で、同じ略語になってしまいます。カルテでも可能なかぎり、正式名称で書くようにしたり、病院によっては「MM=●●」という院内ルールをつくり、情報伝達ミスが起きないようにしています。
「MKでRPG予定の方で、PHにDMとHTがあります」なんていうと、まるで暗号のようですよね。私も初めてRPGと聞いたときは思わずロールプレイングゲーム!?と思ってしまいました。Rは「ロボット支援下」、PGは「噴門側胃切除術」の意味です。そうすると、みなさんもこの文章が読み解けるでしょうか?
答え)「胃癌でロボット支援下噴門測胃切除術を予定している方で、既往歴に糖尿病と高血圧があります。」:略語を使うと、ぐぐっと短くなりますね!
ー参考webサイトー
投稿者プロフィール
- 全方位に目があるんじゃないかという細やかな気配りのできる逸材。寛大で誠実、緻密な仕事ができるのに人に優しい。病理医とSTEAM教育研究者の二足の草鞋を履くお母さん。愛くるしいパンダに似ているのであだ名は「しんしん」。
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