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COLUMN
2024.11.28
2024.11.28
「ガーゼオーマ」を防ぐ!オペ看のガーゼカウント
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今日のコラムは手術室の中からお届けします!手術のリーダーは外科医ですが、体に刃をいれるというとても危険な行為である手術を安全に行うために、たくさんのスタッフが活躍しています。今回ご紹介するのは、手術室の看護師、通称「オペ看(おぺかん)」です。

★オペ看の2つのお仕事

医療ドラマでも個性的なオペ看キャラクターが登場しますね。外科医の「メス!」という言葉に、サッとメスを渡す姿をイメージする方が多いかもしれません。これはオペ看の重要な仕事のひとつで「器械出し」と言われます。1つの手術にもたくさんの道具が登場します。器械出しの看護師は、全ての道具を覚えるのはもちろんのこと、手術の流れを把握し、外科医の指示に素早く応えることが求められます。ちなみに、今の時代では「メス!」なんて偉そうな声かけは少なく、「メスくださーい!」と明るく声をかけるドクターが多いかなと思います。

注目されることの多い器械出し看護師ですが、必ずセットで「外回り」看護師が必要なことは知られていないかもしれません。器械出し看護師は、外科医と同様に滅菌された清潔なものしか触ることができません。つまり、器械の乗った台以外にはほとんど触ることができませんので、それ以外の手術中に必要なことを担うのが「外回り」看護師です。患者さんの様子を記録したり、オペに必要なコード類を接続して場を整えたり、急に必要になった道具や薬剤を調達したりとその役割は多彩です。

手術の現場では、外科医・器械出し看護師・外回り看護師の連携が欠かせません。

★ガーゼを捨てちゃダメ?

オペ看の重要な仕事に「ガーゼカウント」があります。手術中にはたくさんのガーゼを使用しますが、使ったガーゼはゴミ箱にポン!というわけにはいきません。用意したガーゼの枚数を記録し、手術が終わるときに使ったガーゼをすべて数えます。なので、どんなに汚れたとしてもすべて取っておきます。

なぜそんなことをするのか?それは患者さんの体の中にガーゼをおき忘れていないかを確認するためです!特にお腹の手術では、腸の間にガーゼが隠れてしまうことがあります。もしもガーゼを体の中に残してしまうと…ガーゼは体にとって外からきたものなので、免疫細胞が反応して取り除こうとします。しかし、簡単には取り除けず、最終的にはガーゼと免疫細胞がカタマリになってしまいます。日本では「ガーゼオーマ」といわれ、数十年後に見つかり、再手術になる場合もあります。

★あらゆる手でガーゼオーマを防ぐ!

ガーゼオーマを防ぐために、手術が終わる際には全てのガーゼが体の外にでているかをガーゼカウントで確認します。器械出し看護師と外回り看護師がダブルでチェックし、ガーゼが1枚ずつしか入らないようつくられたガーゼカウント専用のトレー(卵パックのような形)を使うこともあります。さらに、今は手術用ガーゼ自体にも工夫がされています。レントゲンにうつる特殊な線が引いてあるのです。ガーゼカウントで万が一漏れてしまった場合でも、手術後のレントゲン撮影によりすぐにガーゼに気づくことができるのです。

手術が終わる時にカウントするものは、ガーゼだけではありません。メスや針など手術で使用したものが全て体の外にでていることを確認します。外科医が「皮膚を縫うよ」と宣言すると、手術が終わりに向かう合図です。その一言で、オペ看たちはスイッチが入ったようにテキパキと、器械・針・ガーゼを数えていきます。

私は医学生で初めて手術を見学したときから、ガーゼカウントがとても好きです!病変が無事にとれた安心感とともに、最後まで安全に終わるよう協力する姿に手術室がひとつになるように感じるからです。

なかなか一般の方がみる機会の少ない手術室ですが、細かな工夫がたくさんあります。今後もご紹介していきますね!

※ちなみに、「ガーゼオーマ」は和製英語で、英語ではgossypibomaやtextilomaといわれます。接尾語の「-oma」は「腫瘍」を意味し、癌(carcinoma)やリンパ腫(limphoma)など多くの医学英語で使われます。ガーゼオーマは腫瘍ではないのですが、腫瘍っぽいということでこの名前がつけられたのかなと思います。実はMEdit Labオリジナルゲームのバナオーマは、ガーゼオーマからヒントを得て、ネーミングしました!

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投稿者プロフィール

發知 詩織
發知 詩織
全方位に目があるんじゃないかという細やかな気配りのできる逸材。寛大で誠実、緻密な仕事ができるのに人に優しい。病理医とSTEAM教育研究者の二足の草鞋を履くお母さん。愛くるしいパンダに似ているのであだ名は「しんしん」。