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COLUMN
2024.05.23
2024.05.23
病理医、手術室に登場!「術中迅速病理診断」
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おしゃべり病理医と私しんしんが働く病理検査室。いつもは穏やかな雰囲気ですが、1日に数回ピリっと緊張する瞬間があります!

★なぜ病理検査は時間がかかる?

病理検査は、手術や胃カメラなどで採取した患者さんの体の一部を顕微鏡でみて行います。血液検査、尿検査、レントゲンやCTなどの画像検査など病院にはたくさんの検査がありますが、その中でも病理検査は結果を出すのに時間がかかります。

その理由は大きく2つあります。ひとつには、採取した体の一部をプレパラート(標本)にする工程に時間がかかるからです。体の細胞を顕微鏡でみるためにホルマリンやアルコールなどの薬品を使って加工するため、標本ができるまでに数日かかります。2つ目の理由は、病理医が診断に難渋する症例があるからです。病理診断は「最終診断」といわれ、治療方針を決めるのにとても重要です。悩ましい場合には論文を読んだり、特殊な染色を行うなど、よくよく検討して診断を行っています。

★手術中に病理診断!?

しかし、例外的にごく短い時間で結果を出す場合があります。それが術中迅速病理診断です。

例えば乳癌の手術では、リンパ節に転移があると、乳房だけでなく、リンパ節も追加で切る必要があります。しかし、小さな転移の場合は顕微鏡で確認しないと見つけることができません。そこで、手術の最初にリンパ節を採取し、外科医が乳房を切っているのと並行で、病理医がすぐに病理診断し、リンパ節を切るか切らないかを決めるのです。ドラマや映画で、手術をしている外科医のところに「癌です」とか「陰性です」などの結果が届くシーンがありますが、これがまさに術中迅速診断です。

手術中のため、病理診断にかけられる時間はおおよそ20分。その間に標本作成と診断を行います。時間が短いのでホルマリンなどいつもの薬品を使うことはできません。代わりに作るのが凍結ブロックです。名前のとおり、-80℃という超低温で、リンパ節をカチカチに凍らせて、標本を作るのです。

急速に凍らせて作る凍結ブロック

埋められているのは、肺がんの手術中に摘出されたリンパ節。このブロックを4μmほどの薄さに切って色をつけてガラススライド標本を作製し、がん細胞がリンパ節に転移しているかどうか迅速診断します。その結果次第で、手術方法が変更になることもあります。

患者さんを待たせないと言う意味では素晴らしい凍結標本ですが、標本を作るのが難しく、顕微鏡で見る時にも普段と見え方が変わります。さらに、病理医が診断を考える時間がとても短いという厳しい条件も重なりますが、術中診断は手術の方針を変える大きな一言になります。私にとっては、日常診療の中でもっとも緊張する場面です。

★病理医が手術室へ!

私の勤める順天堂大学医学部付属練馬病院の術中病理診断にはひとつ特徴があります。それは病理医が手術室に行き、執刀医に直接結果を報告することです。

病理結果はカルテに記載しますが、手術中の外科医はカルテをみることができないので、術中迅速診断では口頭でもお伝えします。多くの病院では、手術室と病理検査室が離れているので、電話で報告しています。この場合、病理医には患者さんや手術の様子がわかりません。一方、私たちの病理検査室は手術室の中にあるので、手術室に入って外科医と直接ディスカッションができます。執刀医と病理医が協力し、よりよい手術を目指しています!

術中迅速診断は、短い時間で、手術の方針を左右する病理医の重要なミッションです。病理医がいる病院だからこそできる検査ですので、私も気合いをいれて臨んでいます。いつでもオペ室に飛んでいけるよう、今日も手術着に着替えて依頼に備えています!

 

–参考webサイト–

MEdit教材:おしゃべり病理医参上! 今すぐ使える医者の情報編集術!(ガイダンス&プレワーク)

→MEdit教材では、標本作成の様子を動画でご紹介しています。臨床検査技師の技術をぜひご覧ください!

・MEditコラム:夢みる臨床検査技師『病理技師の職人技「薄く切る」』

→夢実さんのコラムでは標本作成の難所をご紹介しています。

投稿者プロフィール

發知 詩織
發知 詩織
全方位に目があるんじゃないかという細やかな気配りのできる逸材。寛大で誠実、緻密な仕事ができるのに人に優しい。病理医とSTEAM教育研究者の二足の草鞋を履くお母さん。愛くるしいパンダに似ているのであだ名は「しんしん」。