ふしぎな医学単語帳
ふしぎな医学単語帳 COLUMN
2024.12.12
2024.12.12
脈が飛ぶ?「脈拍 pulse と心拍数 heart rate」
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先日、テクノ音楽を聴く機会がありました。4ビートのリズムは、なんとなく心臓の鼓動と似ていて、聴いているだけで身体でリズムをとりたくなります。クラブなどで絶えず流れているので、なんとなくやんちゃな(もっと言えば不良っぽい?)音楽だと思われがちですが、お母さんのおなかの中で、心音を聴いて育った私たちにとって、テクノ音楽は生理的に大変心地良いリズムなんですね。そして、実は、三味線や鼓とともに舞う日本舞踊と共通するところもあるのだとか!テクノ音楽機器の9割以上がパイオニアなどの日本製だと聞いて、大変驚きました。

さてさて、今日は、鼓動の話です。

ドキドキドキドキ。緊張して自分の心臓の音が気になったことや、手首の脈に触れて、1分間どのくらいだろう?と数えてみた経験は、きっとみなさんもありますよね。

鼓動は、“心臓の拍動”を意味しますが、手首で振れる脈拍(pulse)と心拍数(heart beat)は厳密には異なります。

心拍数(heart rate)=心臓から血液が拍出された回数
脈拍(pulse)=心臓から拍出された血液が動脈を流れる際に血管壁を広げる拍動の回数

つまり、心拍数は心臓の拍動そのもので、脈拍は、その拍動が動脈に伝わったものなんですね。心拍数の正常値の範囲は、成人の場合は60~100とされていましたが、健診を受けた人たちで調べると心拍数は65±10/分で、85/分以上はまれだとか。脈が多いことを「頻脈」、少ないことを「徐脈」といって、脈を調べることは、心臓の異常を簡単にチェックする大事な方法です(東洋医学でも脈診はとても重要な診察技法でしたね→こちらのコラムへ)。

◆脈が飛ぶってどういうこと?

基本的に心拍数と脈拍は微妙な時間差を持ちつつも一致するのですが、ある病気では、一致しなくなります。一致しない場合、私たちは「脈が飛ぶ」と表現したりします。

脈が飛ぶことを医学用語では、「不整脈」といいます。心臓は規則的な電気信号によって、心筋がリズミカルに収縮することによって動いていますが、その電気信号がうまく流れないと不整脈になります。心臓が痙攣するように動く心房細動や心室細動、一定のリズム以外の部分で収縮が起こってしまう期外収縮といわれるものなど、実に様々な不整脈があり、不整脈の種類によっては、脳梗塞の要因になったり(心房細動)、突然死の要因になったり(心室細動)することもあり、注意が必要です。

こういった一定のリズムから外れた心臓の拍動は、通常の拍動に比べて極端に弱々しくなり、血液を有効に末端に運ぶことができず、脈拍として触れることができなくなります。脈が飛ぶとはそういうことなんですね。

◆脈は2つの音だった?

脈は、ぴくっと1回の動きに感じますが、実は、心臓の音を聴診器で聴くと、2つの音が聴こえてきます。心臓は、左右それぞれに心房と心室があって、4つのお部屋に分かれています。心房と心室の間にある弁を房室弁(左が僧帽弁、右が三尖弁)、心室とそこからつながる動脈の間にある弁を動脈弁(左が大動脈弁、右が肺動脈弁)といいます。この2つずつの弁は、それぞれほぼ同時に閉じたり開いたりすることで、血液の逆流を防ぎ、効率的に心臓から体への血液を送り出します。

2つの音をそれぞれⅠ音Ⅱ音と言いますが、Ⅰ音は、2つの房室弁が閉じるときの音、Ⅱ音が2つの動脈弁が閉じるときの音で、聴診器で聴くと、ちょっとⅠ音の方が早く大きく聞こえます。「、ズン」「、ズン」という感じ。別の言い方だと、「クン!」のドがⅠ音で、クン!がⅡ音という感じかな? 呼吸によって、Ⅰ音とⅡ音の間隔がちょっと変わったりもするのですが、循環器内科のドクターは、聴診器で心音のリズムを聴いただけで、心臓に潜む病気について、ある程度あたりをつけていきます。

◆拍と拍の間に病気が潜む?

みなさんの中には、心雑音を健康診断で指摘された方もおられるかもしれません。特に問題のない心雑音もありますが、心雑音は、Ⅰ音とⅡ音で奏でられる音の間に生じる余計な音のこと。Ⅰ音とⅡ音の間で鳴る場合とⅡ音とⅠ音の間で鳴る場合があり、それぞれリズムが変わります。「ズーッズ」なのか「ズズーッ」なのか、これまた聴診器で循環器内科医は“心臓の声のリズム”を聴き分けて、心臓のどこに異常が生じているのかを診断します。

テクノ音楽も、音と音の間をどう表現するかで、リズムやテンポに抑揚が生まれ、音楽のイメージががらりと変わりますね。日本舞踊も、振りと振りの間の流れる所作の中に美しさの本質が宿ります。心臓の病態も拍と拍の間にヒミツが隠されているんですよ。

 

◆参考URL

公益財団法人 日本心臓財団

No17.pdf ←「心拍数と心臓病」

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投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。