順天堂大学では、医学部3年生の秋から臨床医学の勉強がスタートし、いよいよ様々な疾患を学んでいきます。まずは消化器病学(胃腸や肝臓・胆のう・膵臓などの疾患を学ぶ分野)を中心に学びますが、これまで聞いたことがほとんどないのに、印象的ですぐに覚えてしまう疾患のトップ3に来るのではないかと思われるのが、「マロリー・ワイス症候群」です。
◆飲みつぶれて血を吐く?
マロリー・ワイス症候群は、マロリー先生とワイス先生が1930年代に論文報告をされたことにちなんでいます。人命が病名になる “ふしぎな医学単語帳あるある” のパターンですね。
どんな病気か。
激しい嘔吐によって腹圧が急激に上昇し、胃と食道の境目の粘膜に強い負担がかかって粘膜が裂けるように破れる病気のことです。男性が少し多いのですが、飲み過ぎて何度も吐いているうちに、いきなり鮮血が口から出てきた!!みたいな症状を呈するため、もしかしたら、やんちゃな医学生には「自分もなるかも…」と親近感があって、より覚えられるのかもしれませんね。
吐血の量は、粘膜がどのくらい裂けてしまったかによるのですが、胃と食道の境目の壁に比較的ふか~く裂け目ができることがあり、真っ赤な鮮血が出てきます。あまり痛みがないままに突如、真っ赤な血を吐くとパニックになりそうですが、比較的症状は軽い方が多いので、不必要に怖がることはありません。
ただし、場合によっては大出血をきたし血圧が低下してしまうような重症例も。マロリー&ワイス先生が報告されている論文には、出血性ショックで亡くなり、病理解剖された症例が提示されています。けっこうコワイですね。
◆吐血と喀血、何が違う?
ところで、鮮やかな血を吐いた場合、吐血なのか、喀血なのか、この違いはかなり大きいです。いったい何が違うのでしょう?
「吐血(とけつ)」とは、胃を中心とした消化管から血を吐くことをいいます。一方、「喀血(かっけつ)」は、気道、つまり肺から出血したものが口から吐き出された場合をいいます。喀血の要因も色々ありますが、代表的なものは肺結核と肺がんです。どちらの病気も病巣で細胞が死んでしまい、血管が破壊されることが原因で出血します。吐血は、胃の内容なども一緒に吐き出されることも多く、どす黒い色になることが多いのですが(マロリー・ワイス症候群は胃と食道の境界部で出血し、消化液などがあまり混ざらず、例外的に、真っ赤な血を吐くことが多いのですが)、喀血は、気道からフレッシュな血液が吐き出されることが多いため、鮮血が多いのです。
いずれにせよ、血を吐いた場合は、内視鏡検査などで出血部位を確認することが必要ですし、咳や全身倦怠感、あるいは発熱など、別の症状があるかどうかを確認することも大事です。
マロリー・ワイス症候群は、健康な人も突然発症することがある代表的な病気。いずれにせよ、これから卒業式や入学式など、華やかなシーンの多いシーズン。飲みすぎ注意ですよ~!
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投稿者プロフィール
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- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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