今回は、「おしゃべり細胞スタンプ図鑑」の中で初の「臓器」の紹介です。
様々な役割と形態を持つ「細胞」が組み合わさると「組織」となり、その組織がたくさん集まって構成されたものが「臓器」です。臓器は、ある一定の役割をもつ身体のパーツのひとつであり、肉眼で確認することができる単位といえます。
胎盤は、約9カ月間の寿命しかない臓器です。赤ちゃんが「おぎゃあ~」と生まれるまでは、ぴったりと子宮の奥に貼りついていますが、赤ちゃんが生まれたらすぐに剥がれ落ちなくてはいけない臓器なんですね。
赤ちゃんが生まれる前に胎盤が剥がれてしまう病気を「常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)」と言いますが、赤ちゃんやお母さんが亡くなってしまうことのある重篤な病気です。また、赤ちゃんが生まれてからすぐに子宮から剥がれない場合も、やはり大量出血のリスクが高まります。
胎盤は、赤ちゃんとお母さんをつなぐためだけに存在する寿命の短い臓器なのです。その組織構造は、ユニークな形態と機能を有した細胞が組み合わさっており、奇跡的によくできています。
胎盤は、無数の毛細血管から構成されていますが、お母さんの血液と赤ちゃんの血液が決して混じり合わないように精巧に作られています。特にお母さんの白血球が赤ちゃん側に侵入すると、お母さんの白血球は赤ちゃんの細胞を「異物」と認識して攻撃してしまいます。そのため、お母さんと赤ちゃんの間の細胞は、全くスキマがないように、細胞と細胞が合体してひとつの膜のようになり、お母さんの白血球の侵入を防ぎつつ、大事な栄養や酸素などは赤ちゃんに届くような高性能フィルターの機能を有しているのです。
細胞同士が合体する仕組みは、実は、大昔に感染し、人間の遺伝子の一部となったレトロウイルス由来の遺伝子によるものといわれています。わたしたち人間の遺伝子の半分近くはなんとレトロウイルス由来なのだとか。遺伝子にはこれまで私たちの祖先が罹ってきた様々なウイルス感染の痕跡が刻まれていて、また、一部のウイルスの遺伝情報が、私たちの身体の機能に必須なものになっているなんて不思議ですよね。
胎盤は長い進化の過程を経て完成された奇跡の臓器。赤ちゃんにとって、酸素を取り込む肺であり、様々な栄養素を吸収したり産生したりする消化管や肝臓であり、老廃物を捨てるための腎臓でもあります。お母さんの愛にあふれた赤ちゃんのためだけにある万能臓器なのです。
おったまげたいばん、バンザーイ!
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投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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