ふしぎな医学単語帳
ふしぎな医学単語帳 COLUMN
2025.05.01
2025.05.01
アポトーシス・ネクローシス
SHARE

アポトーシス? え? Official 髭男dism? 

生物を勉強したことのない方は、“髭男の曲のタイトル”のイメージが強いかもしれませんが、どんな意味かご存知でしょうか。

アポトーシスは、細胞死、特に「プログラムされた細胞死」のことをいいます。アポトーシス (apoptosis)の語源はギリシャ語の「apo-(離れて)」と「ptosis(下降)」に由来していて、「(枯れ葉が木から)落ちる」という意味があります。生物が生き永らえるため体内の環境を一定に保つために細胞が死ぬ、そんな利他っぽさに感銘を受けた“髭男”の藤原さんは、その言葉からイメージを飛ばしてこの曲を作ったのだとか(その話を聴いて、歌詞を注意深く聞くとなるほどなぁ~としみじみします)。

一方、アポトーシスに対して、思いがけない、事故死のような細胞の死を「ネクローシス」といいます。計画されているかいないか、たしかに細胞が死を迎える状況が全く異なるわけですが、他に何が異なるのでしょうか。

◆利他的なアポトーシス

細胞は、遺伝情報(DNA)を格納する核と細胞の様々な活動を担う細胞小器官を含む細胞質から構成されていて、それを細胞膜が取り巻いています。アポトーシスの場合、細胞膜は最後の最後まで破れることがなく、細胞全体が縮こまっていきます。核はピクノーシスと呼ばれる濃縮が生じ、細胞質から水分が失われ、細胞全体がきゅ~っと収縮し、細胞膜はしわしわになっていきます。イメージ的には冷え固まる感じですね。そして、アポトーシスした細胞は、まるごと近くにいるマクロファージに食べられ、消化されていきます。つまり、細胞小器官など細胞質に含まれた様々な物質は最後まで細胞の外に飛び出ることがありません。静かな静かな、お行儀の良い細胞死です。

◆まき散らすネクローシス

一方、ネクローシスの場合は、どうか。死に方が全く異なります。大きな環境の変化を受けた細胞は、細胞内の浸透圧を維持できず、急に膨張し、破裂してしまいます。これを溶解と呼びますが、細胞膜が破れると細胞質に含まれていたあらゆるものが細胞外にまき散らされ、その物質が原因で強い炎症反応が起こります。炎症がひとたび起こるとまわりの元気だった細胞たちにもダメージを与えることになります。他を巻き込む死なのです。

ネクローシスは、例えば、脳梗塞や心筋梗塞といった虚血性疾患で生じます。虚血、つまり、血液が急に流れなくなると細胞は酸欠になり、死んでしまいます。ほかにはウイルス感染なども上げられます。ウイルスは、感染すると細胞の中に入り込み、細胞質や核を構成する分子を勝手に横取りして、自分のコピーを大量に作り、細胞膜を破って外に出ていきます。

このように、同じ細胞死でもアポトーシスとネクローシスでは大きく異なります。アポトーシスが利他的であるイメージ、みなさんも持てましたか?

 

アポトーシスとは|研究用語辞典 – 研究ネット

アポトーシスとネクローシス関連抗体 | 細胞死の違いがわかる!経路、特徴、カスパーゼを解説 | コスモ・バイオ株式会社

◆「ふしぎな医学単語帳」バックナンバーはこちらから↓

ふしぎな医学単語帳 | MEdit Lab

投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。