医学に効くほん!
医学に効くほん! COLUMN
2023.04.06
2023.04.06
『見立て日本』で診断力をつけましょ!
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順天堂大学医学部の入学試験は、英語の配点がほかの教科の2倍となっていて、実際進学してからもTOEFLの試験が進級判定に活用されるなど、英語力がかなり問われています。これだけ医学研究が予算や研究環境などの条件により欧米主導となり、英語が世界の公用語という状況になっていれば、診療に活用する資料も多くが英語ですし、研究成果を海外雑誌に投稿しようとすれば、やはり英語で書く必要があります。だから、それは必然的な流れであるといえます。

ただ一方で、日本人は西洋とは異なる文化を有し、習慣や思考方法も異なりますから、日本において医療をすべて欧米化すれば先進的になるかと言われれば、必ずしもそうではないと思います。もちろん、Evidence based medicineと言われているように、きちんとした統計学的なデータを用いて、効果の最も期待できる標準的な治療を提供することは医師の責務であり、これからも医療が目指すところでしょう。でも、日本人の患者が、そういったエビデンスの提供だけで満足するかといったらそんなことはないと思います。

日本の医療現場で働くうえでも海外を拠点として活動するうえでも、日本人なら日本の文化をある程度深く理解していたい。英語で語れたら、サイコーにかっこいい。

『見立て日本』は、ちょっと分厚い文庫本なのですが、その理由は、むちゃくちゃ美しいフルカラーの写真がそれぞれ2ページにわたって、百個以上、載っているから!

私は招き猫の写真が特に好きなのですが、日本を象徴するキーワード1つに写真とコラムがセットになり、日本百景を案内する形になっています。どのコラムも900字くらいと読みやすいので、目をつむってパッと開いたところから読むのも良いでしょう。また、目次を見ると120のキーワードが一斉に並んでいます。氏神、三猿、名残、時分、あわせ、鬼、サムライ、お茶、面影等々…。気になったキーワードを選んで読むのも楽しそうです。

私のお気に入りページ「将来(しょうらい)」。ほかのページもとにかく美しいですよ。

さて、本書のタイトルにある「見立て」。これがこの本の120個のコラムをつなぐ編集術です。見立てとは、「AをBとして見る」「AをBとして取り扱う」という編集方法です。お砂場のごっこ遊びでは泥団子をまんじゅうに、大きな葉っぱをお皿に見立てて遊びますね。今、手元で扱えない何かを別の似ているものに置き換えるという想像力が鍛えられる編集術なのです。

この見立ての方法は、新しい商品を考える時も、医師の診断時にも自然に行われています。たとえば「雪見だいふく」は、バニラアイスを白いお餅で包んだお菓子ですね。ふんわりと積る綿雪を見立てた商品であり、その商品名が見立てそのものです。様々な症状を観察して、その症状にぴったりの病名を当てはめる医師の診断プロセスもそうです。それが間違っていれば、“見立ての悪い医者”というレッテルを貼られるわけです。見立てる力は、医師の診断力そのものであるといえます。

つまり本書は、意外や意外、日本の文化を知ることにとどまらず、見立てという情報編集の方法だって学べちゃう一石二鳥(いや、もっと)の本なのです。英作文のトレーニングにも活用できるかも。

日本の文化に溢れる見立ての素晴らしさに学ぶこと多し! 中高生に限らず、医師や医学生のみなさんも、たまには、医学書や論文を読む合間に本書を手に取ってみませんか。

投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。