真っ赤な紅葉とクリスマスイルミネーションが街を染めた、ある12月の日曜日、MEdit Labワークショップ「医学をみんなでゲームする2025」のクロージングイベントが開催されました。7月から始まったワークショップの集大成を発表する場です。この記事では、このイベントの模様をお届けします


2025年12月14日(日)13時、順天堂大学お茶の水キャンパスに集結したのは、中学1年生から高校生、大学生、保護者、社会人まで、総勢60名超。半年間の学びの成果として生まれた6つの「医学ゲーム」がお披露目されました。

▲受付には、MEdit Labが制作した、病理診断を体感できるカードゲーム「バナオーマ」や、MEdit Lab代表の小倉先生の新刊『細胞を間近で見たらすごかった』の販売も
■ワークショップ、まるごと振り返り!
まずは、MEdit Lab代表小倉加奈子先生(写真右)と、しんしんこと發知詩織先生(写真左)がご挨拶。今日のイベントは大きく2本立て。前半は、半年間駆け抜けてきた「医学をみんなでゲームする」ワークショップの内容の振り返り。後半は、ワークショップから生まれた医学ゲームのグランプリを決定する「G-1グランプリ」。
小倉先生が話し始めます。
「MEdit Labで大事にしているのは、ゲームを完成させるということより、そのプロセスを振り返ることです」。


「医学をみんなでゲームする」というワークショップは、自分でテーマを決めて、参加者一人ひとりがそれぞれ異なるゲームをつくるというもの。なぜ、医学部主催のワークショップでゲームを扱うのでしょう?
小倉先生は、ゲーム制作がもつ学びの可能性を伝えます。
「ゲームをつくることで、学校の勉強とは違うかたちで、物事の仕組みを理解していことができます。そして、診療現場でも求められる『試行錯誤』の訓練ができます。さらに、自分の作ったゲームで遊ぶプレイヤーという他者に立って考察するトレーニングにもなります」。
▲中高生の参加者さんも、真剣に聞き入ります
小倉先生と發知先生は、このワークショップのねらいと、7月から参加者さんが取り組んできた12のお題について高速で振り返っていきます。ワークショップのお題については、こちらの記事で一部ご覧になれます。
▲お題の一例だけご紹介。Q8では、山本貴光先生から教わった「ゲームの4要素」を組み立てて、ゲームのルールを決めていきます
■いよいよ開幕、MEdit G1グランプリ!
医学ゲームをつくる意味やそのプロセスを共有したら、いよいよ「MEdit G1グランプリ」のスタートです。ワークショップ修了者17名のなかで立候補した6名が、舞台上でプレゼンを行います。

グランプリを決定するのは、イベントの参加者さん全員とMEdit Lab運営メンバー、そして、わざわざお越しいただいた2名のゲスト審査員!
なんと、プロのゲーム作家で東京科学大学教授の山本貴光先生(写真上)と、順天堂大学の循環器内科医でスポーツドクターの福島理文先生(写真下)が、ゲームの観点、医学の視点からそれぞれ審査を行います。


エントリー作品はずらり以下の6作品。發知先生が「テーマも形式もバラバラで多彩でした」と太鼓判を押したように、力作が並びました。ゲーム制作者は、それぞれのゲームの概要や工夫したポイントなどを1人ずつプレゼンしていきます。

▲舞台上では、審査員からの質問が飛び交います
■グランプリ出場、6つのゲームのご紹介
どんなゲームがグランプリに出場したのでしょうか。カフェテリアに移動して行われたテストプレイの様子とともに、作品をご紹介しましょう。
◆鉄紺さん「消化管電鉄 目指せpoop poop世界一!」
食べ物が体内をどう旅していくのかを体感する、すごろく型ゲーム。「poop」とはウンコのこと。消化管のなかを食べ物が動いていく桃鉄風の仕掛けとともに、磁石でコマを動かす工夫や、ヒントのカードなど、プレイヤーに対するサービス精神が随所に盛り込まれています。
福島理文先生は、ゲームのなかで肝機能が盛り込まれていることを知ると「よく勉強していますね!」と驚きを隠せない様子。



◆りーさん「ちい活〜地域で考える幸せな看取り〜」
終末期のケアを、医師・看護師など多職種の視点で考える協力型ロールプレイングゲーム。りーさんお祖父様の看取り経験をもとにつくられたという思いの込められた1作です。テストプレイをする保護者や社会人のなかには、ご自身の経験を思い出したのか、うっすらと涙を浮かべる人も。


◆Yuiさん「DUOカルテ」
糖尿病や火傷、アナフィラキシーショックなど、さまざまな疾患カードとその説明(原因・予防・対応)カードを見て、瞬時にペアを組み合わせていくスピード勝負のカードゲーム。ご家族でテストプレイをし、幅広い年代に遊んでもらうべく、さまざまな年代の疾患を盛り込んだのがポイント。
發知先生は、「みんな聞いたことはあるけれど、よく知らない病気を選んでいるのがいい」と、カードにした疾患の選び方に大注目。


◆さるぐさん「ハイジーン・ラッシュ」
場に出たカードを見て、条件が揃ったら素早くカードを取るというゲーム「ハリガリ」に着想を得て作られた1作。「地球温暖化・蚊・デング熱」「オゾン層破壊・紫外線・皮膚がん」のように、一揃いの「環境問題・有害物質・疾患」カードが場に出たかどうかを瞬間的に見極めるスピードゲーム。
山本貴光先生は「古代ギリシアの医者ヒポクラテスは、『医者が知らない土地に行ったときは、水と空気がどうなっているか調べなさい』と書き記しています。患者の身体だけではなく、環境ごと見なさいと考えています」と、医学の父ヒポクラテスの考え方にも通じるとのコメントを。


◆ふっく船長「くるベビ」
順天堂大学医学部5年生で病院実習中のふっく船長さんは、産婦人科で目の当たりにした出産をテーマに。お産のときに赤ちゃんが身体をぐるっとまわす「胎児回旋」について、ぬいぐるみや左腕を使って実演しながらのテストプレイ。ゲーム中に赤ちゃんがたくさん生まれて「生まれた〜!」と思わず喜びあうシーンも。



◆Cauchyさん「自律神経衰弱」
トランプゲーム「神経衰弱」をベースに、交感神経/副交感神経のバランスを考えながらペアを取っていくゲーム。「神経衰弱」と異なるのは、たくさんカードを取ることではなく、交感/副交感神経のバランスを考えて取る必要があるということ。
自律神経というテーマ選びに関して、福島先生は、困っている患者さんが多い一方で薬を出すのが難しいと話し、「具体的なホルモンの名前を知れるのが面白く、日常の診察にも活かせるかもしれない」と、実践的な効果を評価しました。



テストプレイの会場には「オゾン層、破壊されすぎてない!?」「みんな小腸がんになっちゃった…」「また赤ちゃん生まれた!」など、医学をカジュアルに楽しむ声が響いていました。
医学部コースの生徒さんを多数引率して参加くださった高校の先生も、「生徒たちが楽しく学べるのが素晴らしい」と、生徒さんが大盛り上がりでゲームに夢中になっている様子をご覧になっていました。
▲すべてのゲームを、山本先生&福島先生が評価づけしていきます。ノートには、工夫したポイントから改良点までびっしり
■結果発表〜!!
白熱のテストプレイが終了すると、会場の参加者投票を募り、審査員は別室へ。いよいよ、2025年MEdit G1グランプリの結果発表です。
●皆勤賞:DUOカルテ(Yuiさん)
ワークショップ全12題への際立った取り組みと、ゲームをブラッシュアップする試行錯誤の充実度が圧倒的。
●福島理文賞:自律神経衰弱(Cauchyさん)
わかりにくいのに、みんなが問題として抱えている「自律神経」を、シンプルに面白くしたことが決め手に。
●山本貴光賞:ちい活(りーさん)
他者を演じるという難しいところに挑戦したチャレンジ精神を、ゲームクリエイター目線で評価。(ご本人が発熱のため無念の欠席、お母様が代理受賞)
●観客賞:ハイジーン・ラッシュ(さるぐさん)
2位と1票差!ゲームマスターの盛り上げっぷりとともに、参加者がすぐに遊べるルールづくりの上手さが支持を集めたか。
●MEdit賞:消化管電鉄(鉄紺さん)
面白くつくるのが難しい「すごろく」ゲームに対し、プレイヤーを楽しませる工夫を随所に盛り込んだ点を高く評価。
■安心して失敗できる場として
最後に、小倉先生から挨拶がありました。
「今回はG1グランプリを実施しましたが、グランプリを決めることがワークショップの目的ではありません。このワークショップでは、たくさんの試行錯誤を体験して欲しいと思っています」
「医療現場は想定外の出来事や、思い通りに行かないことばかりが起きます。失敗にめげず、試行錯誤するレジリエンスが大事です。MEdit Labのワークショップや、毎月実施しているMEditカフェは、失敗しても大丈夫な場所です。学校でも家でもないサードプレイスとして気軽に活用してください」。發知先生は「順天堂大学志望でない方も大歓迎です」と付け加えます。
MEdit Labは、ゲームをつくるだけではなく、学びの姿勢そのものをアップデートしていく場です。来年度のワークショップにもぜひご期待ください。

写真:後藤由加里
投稿者プロフィール

- 聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。
