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文系ウメ子ちゃんねる COLUMN
2023.07.27
2023.07.27
ゲームクリエイターは意地悪になれ 山本貴光先生のレクチャーまとめ
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MEdit Labワークショップ「医学をみんなでゲームする」では、参加者一人ひとりが医学にまつわるゲームをつくることを目指しています。そこで、2023年6月18日に開催された第1回ワークショップでは、ゲームづくりのプロをお招きし、ゲームデザインの基礎をレクチャーしていただきました。講師は、文筆家・ゲーム作家で、東京工業大学教授の山本貴光先生。そこで明かされたのは、ゲームの本質とゲームづくりの4つのポイント。

ゲームで遊ぶとき、人は何をしているのでしょう?
山本先生のレクチャーは、不思議な問いかけから始まりました。

■ゲームとは「失敗を楽しむ」もの

山本先生は言います。ゲームで遊ぶとき、私たちは「失敗」を楽しんでいるのだ、と。ふだん、私たちにとって失敗とは嫌なもの。これを楽しんでいるとはどういうことでしょうか。

山本先生は例を出して説明します。たとえばマリオカートのようなレースゲームを想像してください。そのゲームを始めて、ボタンをピッと押すだけでいつも1位になったら、何の面白さもありませんね。何の苦労もなく、ゲームをクリアしても楽しくないのです。そうでしょう?

ゲームが面白いのは、「他の車が速い」とか「カーブで曲がりきれなかった」などの障害があって、なかなかうまくいかないから。失敗があるからこそ、「次こそは!」とプレイヤーはプレイを繰り返す。そして繰り返したぶん、どんどん上達する。
「ゲームとは、トライアル&エラーを楽しませてくれる仕組みです」。

■ゲームデザインの必須4要素とは?

では、どうやったら失敗を楽しめるゲームがつくれるのでしょう。
「ゲームづくりのポイントはたくさんありますが、今日はそのうち4つだけお伝えします」。山本先生は、ゲームデザインに欠かせない4つの構成要素を紹介しました。それが、ホワイトボードに書かれた「目標」「手段」「評価」「邪魔」の4つです。いったいどんな内容なのでしょうか。

その1:ゲームに目標(ゴール)を設定する

ゲームをするとき、私たちは俄然やる気が出ます。これはなぜでしょう。山本先生は「ゲームの世界には目指すべきゴールがあるから」だといいます。しかもそのゴールは、クリアできることが保証されているもの。クリアできるとわかっているから、そこに挑んで、トライアル&エラーを重ねやすいわけです。

ゲームにどんなゴールがあるのか、具体的な例を挙げるとよくわかるでしょう。レースゲームなら一着になること。オセロならなるべく多く自分の石を増やすこと。MEdit Labが開発した「ウイルスバトル」では、ウイルスとして人類をパンデミックに陥れるというゴールが設定されています。

だとすると、ゲームプランナーがするべきは「ゴールをつくること」。「ゴールをつくるということは、言い換えると、解決しなければいけない問題をつくること」と山本先生は語ります。

RPGでは、危機に瀕した世界を主人公が救うという物語がよくあります。ここでの問題は「世界が滅亡してしまう」ということ。それに対して、主人公が「いやだ!」と抵抗し、解決しようとするからゲームが始まるわけです。

▲MEdit Labのワークショップもゲーム仕立て。参加者たちは「医学にまつわるゲームをつくる」という目標に挑んでいます。

その2:プレイヤーに手段をあたえる

つづいて山本先生が挙げたのが「手段」。ゲームデザインにおける「手段」とは何でしょう。ゴルフを例に解説が始まります。

ゴルフの目標(ゴール)とは何でしょう。ゴルフボールを穴に入れることですね。では、プレイヤーはどのような方法を使ってボールを穴に入れるか、想像してみてください。
「ボールを手でつかんで、てくてくと穴まで歩いて、ぽんと穴に入れるのでしょうか。それでは簡単すぎてゲームにはなりませんね」。ゴルフが面白いのは、わざわざクラブと呼ばれる細長い棒を用意して、その棒を使ってボールを穴にいれるという制限があるから。

プレイヤーには、問題に対する解決手段が与えられているけれど、それが制限されている。マリオがクッパ姫を助けに行くときも、プレイヤーは移動のための十字ボタンとジャンプボタンくらいしか使えないわけです(他にももうちょっとあるけど省略)。でも、その制限がゲームを面白くするのです。

▲山本先生のレクチャーは「マイクを使って話す」「ホワイトボードに書く」という2つの手段だけでおこなわれました。

その3:プレイの内容を数字で評価する

かといって、目標と手段があるだけではまだゲームとしては不十分。「プレイヤーを褒めたり、けなしたりすることが必要です」。山本先生はプレイヤーへの評価が必要だといいます。
ゴルフでも、1回ボールを打ってホールインしたプレイヤーと、30回ボールを打ってようやく穴にボールを入れたプレイヤーとでは、すごさが違うわけです。レースゲームで、一着ゴールの人と最下位ゴールの人が同じ評価だったらつまらないですよね。

ゲームでは、誰がうまかったのかを「数字」で評価できるのが望ましいと山本先生は言います。数字を使うと、なんとなくの「強い・弱い」という印象を超えて、プレイヤーを公平に評価できるからです。

ここでゲームの構成要素がそろいました。目標手段、そして評価。「この3つがあれば、最低限ゲームになる」と先生。しかし、どうしても加えておきたい4番目の要素があるそうです。

その4:邪魔をする

それが、プレイヤーを邪魔する要素。「ゲームクリエイターは意地悪にならないといけません」。山本先生はニヤリとします。

なぜ、意地悪をするのでしょう。ゲームクリエイターの腹いせでしょうか。違います、プレイヤーを楽しませるためです。何の苦労もなく成功したら、ゲームは楽しくないわけです。何度も失敗をして、その度に「こうしたらうまくいくんじゃないか」とトライして、試行錯誤の結果うまく行く、というのがゲームの醍醐味。その体験をつくりだすために、ゴルフではバンカーや池や林などが用意され、マリオの行く手にはクリボーが現れるわけです。
「お客様に楽しんでいただきたいので、ちょっと地獄を用意しておきました、というのがゲームクリエイターの仕事。ひねくれたサービス業です」。

大学や専門学校では2年かけて教えるという内容を、30分で駆け抜けたレクチャー。途中、医学にまつわるゲームをつくる参加者の背中を押すようなメッセージもありました。
「医学が扱う『身体』とは、問題の宝庫。風邪を引いてしまって声が出しづらいとか、ウイルスに感染してしまったとか」。問題の宝庫を扱うのだから、きっとプレイヤーをおおいに困らせるゲームが作れるはず。

山本先生のレクチャーを受けて、参加者たちは次回、MEdit Labが開発した「ウイルスバトル」がどんな仕組みになっているのか解読に挑みます。

投稿者プロフィール

梅澤奈央
梅澤奈央
聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。