文系ウメ子ちゃんねる
文系ウメ子ちゃんねる COLUMN
2023.08.10
2023.08.10
私は元受精卵!医学っぽい自己紹介傑作選~医学・生物篇~
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みなさんは、ふだんどんな自己紹介をしていますか。

同じ学校なら、名前や学年、クラスや部活を伝えますよね。外国に行ったなら、おそらく学校名などよりも、日本から来たことを強調するかも。
もし入院先の病院で患者さん同士で話すとするならば、どんな病気や怪我をしたのか説明するかもしれません。
たったひとりのこの「私」でも、状況が変われば、まったく違う紹介の仕方ができるわけです。

MEdit Labのウェブワーク第1回では、ちょっと不思議な自己紹介に挑戦していただきました。
それは「医学っぽい自己紹介」です。
高校1年生から医学部生、高校の先生から順天堂で働く医師まで、総勢25名がたいへん斬新な切り口の自己紹介をしてくれました。25名×5回答、125作品のなかから、選りすぐりの作品をこのコラムでご紹介していきます。

■好きな食べ物は?


  • 私は、ドーナツをたくさん食べる夢を見たい60兆個の細胞です。(ズッキーニさん) 
  • 私はラーメンが大好きなメタボ予備軍患者です。(もやぴさん)
  • デパ地下でモンブランを見ると交感神経と副交感神経が乱れてしまう男子高校生です。 (まちゃ)

どうですか。このユニークな表現たち。「私はドーナツが好きです」「ラーメンが好きです」という内容も、医学っぽい観点から考えるとこんなふうに言えるんですね。

ズッキーニさんは、この自分という身体が60兆個の細胞の集合体であることにお気づきになった模様。細胞一つひとつに心があるわけではないのに、集まるとドーナツの夢を見ちゃう。生命の神秘に触れるような作品です。

もやぴさんが選んだのは「メタボ予備軍」という言葉。自己紹介というと「いまの自分」について考えてしまうものですが、もやぴさんは「将来、こんな患者になるかも」といった「将来の自分」を想定しているところに可能性を感じました。

そして、大好物を目にしたときの自律神経の変化に注目したのが、まちゃさん。最高ですね。好物を前にしたら「ヨダレを垂らす」いうのが常套句的な表現としてあるわけですが、交感神経が高ぶっちゃうという新たな表現を生み出してくださったことにウメ子の自律神経も乱れたのでした。一年分のモンブランを贈呈したい。

 

■生物的に見てみたら?


  • 私は、子育てに憧れる元受精卵です。(おかちさん)
  • 私は毎日甲羅(重いリュック)を背負う側湾症患者です。(sagasさん) 
  • 私は、地球が花粉という抗体で駆逐しようとしている病原菌です。(mkさん) 

お題は「医学っぽい自己紹介」でしたので、病気に関することが多いのかなと想定していましたが、MEdit Labの参加者さんはやはりすごかった。ご自身を「ひとつの生物」として眺める視点をもっておられたんです。

なんてったって、おかちさんは「元受精卵です」と言い切りました。かっこよすぎやしませんか。私たちみーんな元受精卵。60兆個の細胞の集まりも、たった1個の受精卵から始まったわけです。じゃあ、受精卵になるそのまえは? お父さんやお母さんの身体のもとはどこからきたんだろう? どんどん自分たちの歴史を遡りたくなります。

1mm程度の大きさの受精卵から、16000mm程度まで猛烈に成長した私たち。ホモ・サピエンスは他の動物とは違って、衣服を着たり道具を使ったりしています。そんな道具に注目したのがsagasさんでした。sagasさんがリュックを甲羅に見立ててくださったおかげで、ヒトの生態が摩訶不思議に見えてきました。ホモ・サピエンス(霊長目ヒト属):体長の3分の1から4分の1ほどの大きさの甲羅を背負い二足歩行をする。薄い石板を指でこすり続け、電源の近くを好む――。

ご自身を「ヒトの1個体」として突き放しておられる方が多いなか、ヒトが生きている「地球」をひとつの生き物に見立てたのがmkさんでした。大気圏を突き抜け、地球を俯瞰するような高い視点には驚かされます。この自己紹介のダイナミックさ、すごすぎませんか。ご自身が花粉症であることを示していると思うのですが、「自分が、花粉を天敵としてみなしている」とふつうに考えるのではありません。「地球が、花粉を使って、自分を駆逐しようとしている」と、主客をぐりんと反転させたわけです。地球から見た私はどんな存在なのか、考えたくなりますね。

 

私は元受精卵であり、甲羅を背負った病原菌でもある――。
想像の斜め上をゆく「自己紹介」の数々でしたね。「医学」という観点から見るだけで、ご自身の見え方がガラッと変わったことと思います。ぜひ読者のみなさんも「私は◯◯な□□である」という自己紹介、考えてみてくださいね。(LINEチャットで送っていただいたら、お返事いたします!)

ユニークな回答はまだまだあります。続きは次回。

投稿者プロフィール

梅澤奈央
梅澤奈央
聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。