おしゃべり病理医スタンプ図鑑
おしゃべり病理医スタンプ図鑑 COLUMN
2023.10.30
2023.10.30
いや、よして? いやよ、して?【区切ってつなぐ方法】
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今年度のMEdit Labワークショップでは、毎回参加者のみなさんに、細胞スタンプの缶バッジをプレゼントしているのですが、その中でも手に取ったみなさんがしばし「???」となるスタンプを紹介します。

▲参加するたびに違った缶バッジをゲットできるMEditワークショップ

■区切ってつながっている

関節は、身体を動かすうえで必須の人体の構造ですが、当たり前だと言われそうなのを覚悟で説明すると、「区切ってつながっている」というのが超重要。特につながり具合が程よいことがなめらかな身体の動きにはとても大事です。

「可動域」という言葉も使われたりしますが、特にダンサーやスポーツ選手たちは、この可動域を自分の目指す身体感覚に向かって微調整をするべく、日々トレーニングを積んでいます。

さて、この「区切ってつながっている」状態というものは、人体の関節だけにかぎりません。あらゆる情報もそうなっています。

例えば鉄道路線には各駅が配置され、大病院は様々な診療科に分かれ、新聞やSNSの記事も、ページやタイトルやURLによって区切られている。学問だってそうですね。小中高校では科目ごとに勉強しますし、大学は様々な学部や学科に区切られています。

とにかく私たちを取り巻く環境において、情報が区切られていることは当たり前のことであり、また、そもそも私たちの脳は、絶えず五感を通して入ってくる無数の情報を区切らなければ処理することができません。

情報がある程度区切られている環境だからこそ、私たちは何気なく日々を送ることができています。鉄道も病院も新聞もSNSも学校も、適切な区切りがあるからこそ機能しているといえますし、駅や診療科やタイトルやページがなかったら、科目や時間割がなかったら、私たちはあちこちで、路頭に迷うはず。

■新しく、区切ってつなげ直す「情報の分節化」

しかし、情報があらかじめ区切られた状態に慣れ過ぎると、当たり前に思い過ぎると、新しい発見は得られません。区切られていることの弊害に鈍感になってしまうと面白い発想は出てこないのです。時に既存の分類にとらわれず、違った方法で区切ることができれば、情報の別の側面が見えてきます。

「いやよして」。たった5文字のひらがなですが、区切り方によって意味はがらりと変わります。「いや、よして」と「いやよ、して」。言われたこちらとしてはその後の行動が180度変わってくるでしょう。日本語の特にひらがなの特性上、分け方で意味ががらりと変わる現象は他の言語より多く生じます。

MEdit Labでは、松岡正剛さんの提唱する「編集工学」を活動の基盤にしていますが、松岡さんは、情報を区切り直し、新たなつなぎ方を考えることを「情報の分節化」と呼んでいます。

奇しくも先日、松岡正剛の『知の編集工学』増補版が発売されました。1996年7月に初版が発売されて以来、長い間読み継がれた本で、時代が大きく変わって、一人ひとりが1台ずつスマホを手にするようになっても全く内容は古びていませんが、今月ついに大幅な加筆修正を経て、増補版が登場したのです!

本書の表紙にも書かれているように、松岡さんは「情報は、ひとりではいられない。」といいます。情報は絶えず何かとつながりたがっている。だから、私たちは情報たちを別の新しい何かとつなげることができる。それが情報の分節化です。情報たちに新しく組む友達や重ね着できる洋服やどこかに出かけるための乗り物を与えてあげることができれば、情報に別の見方を与えてあげることができますし、そこから新しい価値を生み出せるかもしれません。それがイノベーションです。

松岡正剛『知の編集工学』[増補版]朝日文庫
表紙デザインは、編集工学研究所のデザイナー穂積晴明さん。
穂積さんは、MEdit Lab教材の動画やワークブックのデザインを担当してくださっている。

VUCAの時代をしなやかに生きる方法はまさに「編集工学」にある。MEdit Labも「リベラル・アーツとしての医学」をモットーに、これからも面白い情報の区切り方、「分節化」にこだわりたいと思います!

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投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。