糖尿病(2型糖尿病)は生活習慣病のひとつとして、今や小学生でも知っている病気ですね。しかし、多くの患者さんはこの病名に対して、何らかの抵抗感や不快感を持っているそうです。「尿」ということばが不潔なイメージにつながり、誤解や偏見を生んでいるようで、嫌な想いをされたことのある患者さんも少なくないのだと思います。
また、「糖尿病」という名前は、「尿におさとうが出る病気ということは甘いおしっこなのかな?」というような解釈にとどまってしまいがちで、病気の本質を表していないという専門家の意見もあります。たしかに、糖尿病になると尿中に糖がたくさん出てしまうのですが、それはどちらかというと病気の原因ではなく、「結果」なのです。
◆細胞の栄養失調?
糖尿病は、いくつかの要因によって体内のインスリンの働きが弱まってしまう病気です。インスリンは、血液中の糖の値、すなわち「血糖値」を下げる役目があり、糖尿病のひとは、血糖値が高くなります。血糖値が高い状態が続くことで、尿にもたくさんの糖が漏れ出してしまうことになります。
ここで、血糖が高い状態を細胞の側から考えてみます。血液は細胞が元気に活動するための酸素や糖をはじめとした栄養を運んでいますが、血管の中を流れており、細胞の外側にあります。インスリンというのは、血液の中に含まれる糖を血管の外にいる細胞たちがしっかり取り込むために必要な物質なんです!つまり、インスリンには、血糖値を下げる役目があるといいましたが、細胞側から言い替えると「細胞が糖を取り込むことを手助けする役目」があるのです。
インスリンの働きが弱まると、細胞はせっかく糖が近くに運ばれてきたとしても、血液からうまく取り込むことができません。回転ずしのお店の中で、美味しそうなネタがどんどん運ばれていくのをじーっと見ているだけみたい。細胞はお腹がぺこぺこで栄養失調になります。これが糖尿病の病態の本質です。糖尿病の症状である、疲れやすさや体重減少は細胞が元気のない証拠です。
◆血液中の糖は毒になる!?
血糖値が高い状態のままであること自体も非常によくありません。「糖毒性」といいますが、たくさんの糖が血液中にあると、それによってインスリンを分泌する膵臓のβ細胞(以前お話したランゲルハンス島にいる細胞です!)が疲弊してしまい、ますますインスリンを分泌できなくなります(よく考えればβ細胞だって細胞のひとつであり、糖を栄養にして活動しているのですから当然のようにも思えてきました)。また、たくさんの糖が変性して血管壁にくっついてしまい、血管を傷めてしまうことになります。特に糖尿病の場合は、細い血管の壁にダメージを及ぼすことが多く、細い血管の多い臓器に特に症状が出やすいのです。代表的なものが「糖尿病性腎症」「糖尿病性網膜症」「糖尿病性末梢神経障害」ですが、腎臓も網膜も皮膚の末端も細かな血管が豊富なところですから、特に具合の悪さが集中する、というわけです。
◆糖尿病は3000年前から?
糖尿病という病気は3000年以上前から存在していたようです。エジプトの医書にも書かれていたとか(ちなみに、日本史では藤原道長が糖尿病だったと言われていますね)。
糖尿病は、実は、17世紀ごろから使われだした英語の“diabetes mellitus”をそのまま訳したネーミングなのですが、”diabetes”はラテン語 “diabētes”、ギリシャ語、”diabaínein”「通り過ぎる」を意味する言葉が語源であり、飲んだ水がじゃばじゃば尿として身体の中を通り過ぎるような症状からきています。一方、”mellitus”は甘いという意味で、つまり「甘い尿が絶えず流れ出し,やせ細って死んでしまう病気」という意味なのです。
◆「糖尿病」をどう言い表す?
このように長い歴史を持つ糖尿病なのですが、不快感を感じる患者さんも多く、病気の本質を表していないという問題点もあることから、改名の動きがあります。日本糖尿病協会と日本糖尿病学会で進められてきたプロジェクトがあり、新しい呼び名として「ダイアベティス」が提案されました。
ダ、ダイアベティス…? 一般の方は特にカタカナ表記で耳慣れない言葉のため、戸惑う方も多そうです。英語名を音読みしたカタカナ表示のため、漢字と違って意味がぱっとわからないのが難点です。「糖代謝異常症」や「高血糖症」のような漢字表記で意味がわかりやすい名前の方がいいではないかという意見も根強くあり、賛否両論のようですが、さてどうなるか。今後、注目です!
《参考資料》
投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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