文系ウメ子ちゃんねる
文系ウメ子ちゃんねる COLUMN
2023.11.20
2023.11.20
医療現場の舞台裏へ!ドクター座談会、開催しました
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ついに開催できました! 現役ドクターから話を聞く座談会です。MEdit Labのワークショップには、医学部志望の高校生のみなさんも多くいらっしゃいます。進路を考えるみなさんがいちばん気になるのは、お医者さんのリアルな声。ということで、第3回ワークショップでは、参加者からの質問にこたえる座談会を実施しました。順天堂スポーツ医学研究室から2名の先生もお招きし、臨床のリアルを聞きました。70分にわたるQ&Aの数々を、ダイジェストでお届けします。

■座談会メンバー
髙澤祐治先生:整形外科専門医。スポーツドクターとしても活躍、ラグビー日本代表チームに帯同した経験も(写真中央)
小松孝行先生:救急科専門医・集中治療専門医・総合内科専門医。スポーツドクターとしても活動し、この夏はFIBAバスケットボールワールドカップ2023では組織委員会のメディカルオフィサーを務める(写真右から2番目)
◯小倉加奈子先生:MEdit Lab主宰・おしゃべり病理医(写真左から2番目)
◯發知詩織先生:MEdit Labメンバー。おなじく病理医(写真左端)
◯山本貴光先生:文筆家、ゲーム作家。東工大教授(写真右端)

 

■医学とゲームは関係ある?

――参加者からの質問です。医師の仕事をしていて、ゲーム感覚になる場面はありますか?

小松:患者さんの命を預かっている以上、私たちは真剣です。でも、僕の場合は日頃からゲーム感覚があります。患者さんっていろいろな人がいるんですよね。
たとえば、妙に怒っている患者さんに出会ったとしましょう。そういうときは「どうしてこの人が怒っているんだろう?」って、けっこう考えます。患者さんの一言から「ああ、なるほど、これはたしかに以前かかった病院での対応がひっかかっているんだな」と、その理由がわかったりします。何気ない会話からヒントを見つけて、なぜこの人がこの状態になっているのか、考えていくのはゲーム感覚に近いですね。

――貴光先生からご覧になって、ゲームと医療との関係はどうとらえておられますか?

山本:ゲームがもつ力と、医療行為がもつ力をうまく掛けあわせると、患者さんを手助けできることが増えると思います。リハビリなどでは、ただ身体を動かすだけだとしんどいかもしれない。でも、そこに例えば『リングフィットアドベンチャー』(Nintendo Switch)のような仕組みを取り入れると、やる気を維持しやすくできるかもしれない。実際、そうしたシリアスゲームも試みられています。この場合、ゲームが、患者さんの気持ちを援助することができそうですね。現時点では、ゲームの専門家と医療の専門家が協力する場面はまだ少ないように思います。それだけにMEdit Labという場は貴重なものですね。

――そういえば、小松先生は作ってみたいゲームがあるとか。

小松:そうそう、僕らの小さい頃には「サッカーチームをつくろう!」といった育成ゲームがありました。そういうゲームをもっとリアルにしたいんです。いまは、トレーニングをするだけじゃなくて、回復させることも大事になっています。強い選手を育てるためには、食事も重要ですが、じゃあ、どんなメニューにしたらいいんだろう、とか。医学的な正しい知識を使わないといい選手が育たないといったゲームは作ってみたいですね。

 

■診断のリアル!迷うドクターたち

――高澤先生は、スポーツドクターとしてラグビー日本代表チームにも帯同されていますよね。試合中の判断など、難しくはないのでしょうか。

高澤:じつは、プレイを続行するかどうかの判断は意外と難しくないんです。日頃の選手の様子も見ていますので、この選手は腕が折れていてもプレイしたがるな、とか、この選手はポジション的に続行が難しいなとか、すぐにわかります。監督とインカムでやりとりします。

むしろ、時間があるほうがオプションが多くて悩みます。治療の選択肢はひとつじゃないんです。たとえば、ある選手が膝を故障して、半月板の治療をしないといけないとしましょう。半月板を縫うことになると半年は試合に出られません。いっぽう、半月板の部分切除をするなら3ヶ月で復帰できます。でも、10年後のことを考えたら、切除しないほうがいい。いま輝くのを重視するのか、10年後のことを考えるのか、そういう判断は難しいですね。

――診療のリアルが気になっている参加者さんが多いようです。病理医が判断に迷うことはあるんでしょうか?

發知:当然あります。私たち病理医は、ひとつのプレパラートを見てこれが「ガンなのかどうか」を判断することが多くあります。迷ったときどうするかといえば、ひとつの方法は、徹底した調べ学習です。国内のみならず、世界中の報告を見て検討します。もうひとつは、人に聞くことです。患者さんを助けたい気持ちはお医者さんなら同じなので、他の病院の先生に相談することもあります。

小倉:ただ、そうやって調べる時間がないこともあります。手術中の「迅速診断」が求められることがあります。手術の真っ最中に、この腫瘍は良性か悪性かジャッジしなければいけません。かけられる時間は20分程度。良性なら手術は撤退、もし悪性ならリンパ節を全部取ります、さあどっち、という選択を短時間で迫られるわけです。
あきらかに良性・悪性がわかれば問題ないのですが、ほんとうに難しい症例もあります。そんなとき、私たちは、患者さんに不利益が少ない選択を選びます。臓器を全部取ってしまったら、取り返しがつきません。いまは判断できないとなったら、いったん手術を終えて、再度時間をかけて検査する。そして、もし、悪性だったらまた手術する、といったリカバーできるような選択をします。医者の判断も、つねに唯一の正解があるわけではないんです。

 

■医者が教える緊張しないコツ

――お医者さんのお仕事は緊張の連続だと思うのですが、どうやって緊張しないようにしていますか?

小松:人が緊張するときって、「想定外のことが起こる」って思っているときなんですよね。僕はふだん救急の現場にいますが、「つねに想定外のことが起こる」と思って仕事にむかっているから、緊張はしない気がします。

高澤:僕も、あんまり緊張しないんです……(笑)。今度、180キロのお相撲さんを手術することになったんです。180キロもあると、ふつうの手術台に乗らないんです。となると、特別な手術台を発注する必要があります。そうやって、一つひとつ準備していくと、あとはやるだけですね。仕事より、娘が運動会で50メートル走のレースに出るときのほうが緊張しますね(笑)。

發知:みなさん、緊張しないんですね……。私はします!(笑) 患者さんに麻酔がかかっていてお腹があいていて、迅速診断しないといけない、というときは特に。そうやって緊張しているときは、ふだん気にならないことが気になっちゃうんですよね。そういうときは、緊張していないとき、自分がどうしているかなって意識するようにしています。

小松:「緊張」っていう言葉を考え直してもよさそうですね。たいへんな状況に置かれたとき、僕は「自分がピンチだ」ということは認識します。けれど、それを「ナーバスになっている」と訳しちゃうと違う気がします。「コンセントレーション(集中)している」と思うと、いいのかもしれませんね。

■ドクターの喜びとは

――医者の仕事のやりがいってなんですか?

小松:月並みな言い方なんですが、患者さんから「ありがとう」って言われたときはうれしいですよね。僕たちは、患者さん第一(ペイシェント・ファースト)で働いているので。

高澤:僕は、わからないことがあるから楽しいですね。現場には、解決しなければいけない問題がつねにあります。ぜんぶ解決していたら、ドクターって要らないんです。今日は臨床の話が多くなりましたが、研究もすごくおもしろいです。

ワークショップに参加した高校の先生からは「医学部志望の全生徒に聞かせたかった」と絶賛いただいた座談会。いかがでしたか。
いくつも発見があり、参加者は前のめりになってメモを取っていました。「医師の診察」というと、唯一の正解を選び出すものかと思いきや、じつはお医者さんも悩みながら進んでいること。意外と、ドクターの仕事にはゲーム的な要素もあるということ。そして、「わからないからこそ楽しい」ということ。医者としての仕事の奥深さを体感する時間となりました。この日の話を聞いた生徒さんが、もしかしたら10年後、この順天堂大学で後輩たちへのエールを送っているのかもしれません。

 

投稿者プロフィール

梅澤奈央
梅澤奈央
聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。