ホワイトデーですね。贈り物は相手に気持ちをアピールするチャンスのひとつですが、細胞たちは常日頃から自己アピールをかかしていません。いったいなぜでしょう?
本日、おしゃべり病理医スタンプ図鑑でご紹介するのは、“アピールしてます”。細胞たちの自己アピール法にせまります。
■アピールし続けないと殺されちゃう?
細胞たちは、つねに自己アピールをし続けないと、免疫細胞に目をつけられてしまいます。免疫細胞に睨まれると殺される運命にあるため、細胞たちの自己アピールはまさに命がけです。
免疫細胞は、基本的に自己と非自己を明確に分け、体に侵入してきた「非自己」を徹底的に攻撃しようとします。自己と非自己を分ける目印になるものが、細胞の表面にある「主要組織適合遺伝子複合体 (MHC class 1)」と呼ばれる分子です。
MHC class 1分子とは、細胞が自分の身体の表面にぶらさげる「名札ホルダー」のようなもの。ホルダーですので、そこには名札をくっつける場所がついており、名札ホルダーと名札がセットになることで、自己アピール完了です。ちなみに、この「名札」もその細胞がつくった“ペプチド”という物質です。細胞自身が作ったペプチドである名札を、MHC class 1分子という名札ホルダーにくっつけているのです。
たとえば、私の全身の細胞は、すべて「おぐらかなこ」という名札を名札ホルダーに差し込み、表面にぶらさげています。免疫細胞たちは、おぐらかなこという名札の入ったホルダーを見て、「あれは、わたしの細胞だ」と、攻撃しません。ところが、名札をホルダーごと落っことしてしまった場合、あるいは、名札の名前が、「おぎゅらかなこ」だとか「おぐらかにゃこ」のように微妙に変わっている場合、「あの細胞、やばい」と認識し、免疫細胞たちはすかさず攻撃を加えます。攻撃を受けたわたしの細胞は、「細胞死=アポトーシス」させられてしまうのです。
■うまくアピールできないとやっぱり殺されちゃう?
名札を落っことす、とか、名札の名前が微妙に変わっている、という状態は、細胞にとってどういう状況なのでしょうか。いずれも細胞ががん化したり、ウイルスなどに感染して変性してしまうと生じる現象です。「名札を落っことす」と喩えたのは、自分の目印である、MHCクラスI分子の発現が低下している状態の細胞を意味します。ナチュラルキラー細胞の一部は、この自己の目印であるMHCクラス1分子の発現が消失していると、その細胞を「非自己」と見なし、攻撃することがわかっています(これを「missing-self説」といい、証明されている現象ですが、ナチュラルキラー細胞の攻撃態勢に関しては、これ以外にも様々な因子が関与しておりメカニズムはもっと複雑です)。
一方、ウイルスなどに感染した細胞は通常とは異なるペプチドを作ります。これが、「名札の名前が微妙に変わっている」状態のこと。非自己ではないけれど、「変な自己」ということになります。こういう細胞に関しては、細胞傷害性T細胞という免疫細胞のひとつが、攻撃をしかけることがわかっています。
このように、人間の免疫機能というのは、自己と非自己を認識して、非自己を攻撃するのが基本となっていて、細胞の命がけの自己アピールは、この免疫機能を支える必須の行いなのです。
細胞たち健気だなぁ~!
■参考動画
おしゃべり病理医が免疫機能のメカニズムについて手づくり紙芝居で説明している動画がこちら。複雑な免疫機能の基本的なことを理解するにはうってつけのツールです♪
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投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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