進化の過程で魚類が水中から陸地に上がるのに障壁になったのは呼吸でした。魚類はエラを使って呼吸を行いますが、陸地で呼吸をするのには適していません。生物が陸地で生活することを可能にしたのはなんといっても肺という臓器ができたことです。今回はありがたみを感じながら、肺の見方を深めていきましょう。
◆新鮮な空気と気と津液と
西洋医学では、肺は「呼吸をつかさどりガス交換を行う」とメカニカルにとらえます。新鮮な空気から酸素を体内に取り込み、不要になった二酸化炭素を吐き出します。
一方、東洋医学では、全身に「気」や「津液(しんえき:血以外の体内の液体)」を循環させる役割があると考えます。さらに、肺は、「心」の働きをわきでささえて、血を巡らせるのを助けることから「相博(そうふ)の官」といわれます。「博」とは助けることを意味します。生命活動を維持する縁の下の力持ちとして、気や血、津液を全身に巡らし、調節しているのです。
このように、「肺」の見方は、東西で少し異なるのですが、いずれにしても24時間一時も止まらず、全身に新鮮な酸素を(東洋医学ではさらに気や津液を)、絶え間なく循環させている呼吸のみなもとが「肺」なのです。「組織や専門や年齢や職種をまたいで長く広く深く連続していく学びの場づくり」を目指し、肺をContiinuity(連続性)ととらえる「MEdit lab」コンセプトともつながります。
◆五臓六腑は皆、咳をする
肺と全身との関係を象徴する例として、「咳」があります。東洋医学では、「五臓六腑は皆、咳をする」という言葉があります。肺の病気で咳が起こるのは当たり前ですが、肺だけが咳を起こすのではないのです。西洋医学でも、心の不調やアレルギー、心臓病、薬の影響、胃酸の逆流など、咳の原因はいろいろと知られています。
基本的には、持病を治療する中で咳も良くなるはずですが、中にはどうしても改善しない人もいます。そういうときには漢方薬や鍼灸の出番になります。特に、中高生では、原因不明の場合は「肝」に関係した気持ちの要素が関わっていることが多く、ご高齢の場合は「腎」の要素が関わる咳が多いといわれています。
ある17歳の女の子を紹介します。風邪をきっかけに、咳がなかなか止まらず、様々なお薬も試しても効果がなく1年以上も治らない、ということで私の外来にやってきました。
コロナ禍のため、人前で咳をすることが強いストレスになって気の巡りが悪くなる。気の巡りが悪くなると溜まっているものを吐き出そうと咳がでる。それがまたストレスになる。そういった悪循環に陥っていました。出席日数もギリギリだと涙ながらに話してくれました。そこで、うつうつとした気分を晴らす作用の生薬も含まれた「神秘湯」という霊験あらたかなお薬を処方したところ、二週間後には咳も止まり、学校を休むことも無くなって本人もお母さんもも大喜びでした。
長引く咳、原因がわからない咳、治療が難しい咳ほど、肺と全身の関係に着目する“東洋医学のミカタ”が光ります。
投稿者プロフィール
- 生まれも育ちも石川県。地域医療に情熱を燃やす若き総合診療医。中国医学にも詳しく、趣味は神社巡りとマルチな好奇心が原動力。東西を結ぶ“エディットドクター”になるべく、編集工学者、松岡正剛氏に師事(髭はまだ早いぞと松岡さんに諭されている)。
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