ミカタの東洋医学
ミカタの東洋医学 COLUMN
2024.03.25
2024.03.25
臓器移植で性格が変わる?
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クレア・シルビアさんの名前を聞いたことがありますか? 1988年に心臓移植を受けた患者さんの名前です。心臓移植を受けた彼女はドナー(臓器提供者)の好物が好きになり、性格まで明るく変わったそうです。つまり、心臓を移植することによってドナーの性格まで移植された、ということ。こんなこと信じられるでしょうか。この現象は「記憶転移」として知られています。記憶転移のメカニズムについて、西洋医学の立場では様々な仮説が挙げられていますが、科学的に原因は明らかになっていません。

◆心は神(しん)を蔵する

今回は、東洋医学における心(しん)の見方を紹介することを通じて、記憶転移について検討していきたいと思います。心臓は、血液を身体全体に巡らせる働きを持っています。これは東西共通の見方ですが、加えて、東洋医学では、さらに「心は神(しん)を蔵する」というふうにとらえます。西洋医学と異なるとても特徴的な見方です。

東洋医学の神は、精神を含めた生命活動全体におよぶ根源的な力を意味します。唯一絶対で万物の創造主を指すような「Oh, my God」と口にする、あの西洋の神ではありません。それぞれの心とともにあるものです。つまり、「心は神(しん)を蔵する」とは、血液をからだ全体に巡らせる心に、「神」が宿っていて、大きな力で心身を調和させているということです。

“心神”の活動が低下すると、人はとても不安定な状態になり、不安や焦りや苛立ちで胸がドキドキしたり、眠れなくなったりして、ついには、うつやパニック状態に陥ることもあります。

意識がなくなることを、「失神」と書きますが、まさにそれは「神を失う状態」なのです。

◆臓器移植で性格変化?!

東洋医学の見方を踏まえれば、クレア・シルビアさんのエピソードは納得のいく話かもしれませんね。生命活動全体におよぶ根源的な力が心には宿っているのですから、移植されたからだやこころにも影響をおよぼすのでしょう。

実は、研究では、「心」だけではなく、その他の臓器も含め、移植をすると約9割の患者さんに性格変化が表れた、という報告もあるのです!

もちろん、移植手術という大きなイベントを乗り越えたことで性格が変わった可能性もありますが、心に限らず、五臓六腑それぞれが大なり小なりこころにも影響を与えるという東洋医学の見方を踏まえると「記憶転移」はそれほど驚く話ではないのかもしれません。

 

【参考文献】

1)クレア シルヴィア著: 記憶する心臓: ある心臓移植患者の手記: 角川出版 1998.

2) Brian Carter et al: Personality Changes Associated with Organ Transplants.Transplantology 2024; 5: 1.

3)Mitchell B. Liester, et al: Personality changes following heart transplantation: The role of cellular memory. Medical Hypotheses 2020; 135: 109468.

 

投稿者プロフィール

華岡 晃生
華岡 晃生
生まれも育ちも石川県。地域医療に情熱を燃やす若き総合診療医。中国医学にも詳しく、趣味は神社巡りとマルチな好奇心が原動力。東西を結ぶ“エディットドクター”になるべく、編集工学者、松岡正剛氏に師事(髭はまだ早いぞと松岡さんに諭されている)。