今の日本において、一生の間にがんになる人はふたりに一人。死因の第一位もがんであり、とても身近な病気であるといえます。
一方、「がん」は、あらゆる臓器に起こる「制御の難しいできもの」の総称であり、同じ臓器に起こったがんでも何十種類もあるんです。しばらく放っておいても大丈夫なもの(例:一部の前立腺がん)から、数日治療が遅れたら命取りになるがん(例:一部の急性白血病)まで、悪さも、治療法も、実に色々で、それらを全部ひっくるめて「がん」とまとめてしまうのはかなり雑であるともいえます。
そんな雑多な病気のまとまりである「がん」の中で、「希少がん」と呼ばれているがんがあります。これは文字通り、希少、まれながんのことです。世界的に決まっている定義もあり、「10万人当たり6例未満」の発症率を示すもので、希少なために、治療法の選択などに困るものをいいます。
◆希少がんは希少じゃない…?
ただ、先ほどお話したように、同じ臓器に生じたがんでも何十種類もあり(がんの種類のことを「組織型」といいます)、患者さんの多い頻度の高い種類のがんと稀ながんが含まれます。例えば、大腸がんは、日本でかかるひとが最も多いがんですが、その中にも変わった組織型の稀ながんが含まれていて、それは希少がんに分類されます。
このように、希少がんは、臓器ごとにあるため、ひとつひとつの希少がんは希少であっても、希少がんに罹患した患者さんの数は自ずと多くなり、全体のがんの患者さんのなんと2割に達します!特に若い方のがんは、成人のがんと性質が異なることもあり、多くのがんが希少がんに含まれるのです。
◆希少な病理医が希少ながんを勉強する会
私の勤務する順天堂大学練馬病院の病理診断件数は、年間8000件ほど。すると年に何回かは、非常に希少ながんに遭遇します。希少ながんは、私たち病理医の経験も乏しいことから、診断が難しいことも少なくありません。希少ながんほど誤って診断される可能性が高くなってしまいますが、ただでさえ病理医自体の数も少なく、病理部門の約3割は“ひとり病理医”という状況。仲間に意見を訊いたり、その病気の病理診断についてより知っている先輩から指導してもらうことさえ難しい病理医が多い中で、ひとりひとりの病理医の努力ではどうにもならないこともあり、学会や国単位での対策が必要になります。
日本病理学会では、厚生労働省の支援のもと「希少がん診断のための病理医育成事業」を推進しており、年に4回、オンラインの「希少がん病理診断講習会」を開催しています。
フルカラー、約180ページもある充実の講習会テキスト。講習会は年4回あるため、全部参加すると相当のボリュームに。これ以外に各臓器の『がん取り扱い規約』や俗に“ブルーブック”と言われる『WHO Classification of Tumours』をはじめとしたバイブルをはじめ、ネットでの文献検索なども併せて希少がんの病理診断に臨んでいます
この講習会では、特にその臓器のがん診断を得意とするエキスパートの病理医が講師となり、その臓器で起こる希少ながんについての講義をしてくれます。講義では、教科書的な内容から、よく遭遇するがんと希少ながんとの特徴の違いなどを含め、日常の診療で活用できる実践的な診断ポイントが解説されることが多く、おしゃべり病理医もしんしんもなるべく参加するようにしています。カラーテキストもついて無料でオンラインで受講できる講習会をフル活用しない手はありません。
また、日本病理学会のホームページには希少がんの診断をトレーニングできるeラーニングが用意されており、パソコン上で倍率を操作してがんを観察することのできるバーチャルスライドと問題がセットとなり、そこに詳細な解説もついており、自習する環境も整っています。
明日にも遭遇するかもしれない希少がんを的確に診断できるよう、毎日が勉強です。と、同時に、病理医仲間ももう少し増やさなければ…!
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投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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