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COLUMN
2024.09.23
2024.09.23
プロ中のプロを目指す!「専門医試験」
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少しずつ涼しくなり、秋を感じるようになってきましたね。みなさん夏の思い出はなんですか?
「受験生だからこの夏は勉強づけでした!」という中高生の方もいるかもしれません。順天堂大学医学部では、4年生と6年生の夏休み明けに「落ちたら留年が決まるテスト」があるので、参考書を持ち歩いて過ごした記憶があります。そして、医師である私しんしんも、今年は勉強に追われる夏となりました。そう、専門医試験に挑戦したのです。

★医師の分野別プロ試験

国家資格である医師免許があれば、法律的には診療のほぼ全てのことができます。普段、病理診断をしている私が手術をしたり、救急車で来た妊婦さんを診察しても問題はありません…。とはいっても、患者さんの立場なら手術は外科医に、妊婦健診は産婦人科医にやってほしいですよね。現代の医学はとても幅が広いので、医師もそれぞれが得意とする分野をもち、分業しています。その医師が得意な分野を示す、つまりプロ中のプロであることを証明するのが「専門医」という制度です。

専門医は国家資格ではありません。以前は医師の集まりである学会が認定をしていたので、分野によって基準がバラバラという問題がありました。現在は分野によらず、厚生労働省の提言でつくられた日本専門医機構が一律に認定しています。また、一度試験に受かればよいわけでなく、定期的に更新も必要なので、専門医でいるためには診療や知識のアップデートが必要です。患者さんが安心して診療を受けられるような制度となっています。

★専門医までの道のり

専門医になるには何が必要でしょうか。まずは「専門研修」として、医師として働きながら技術や知識を身につけます。専門医を目指す人は、初期臨床研修を終えると、専門研修に移行します。研修期間に経験したことをレポートなどで提出した上で、専門医試験に臨み、合格すると専門医になることができます。
「なにを」「どの程度」経験する必要があるかは、分野ごとに異なります。今は大きく19種類の専門医があり、それぞれに必要なことが定められています。

今回私が受験した病理専門医の場合には

・3年間の専門研修を終えていること
・病理解剖を24例執刀・診断していること
・組織診断を5000件以上経験していること
・術中迅速診断を50件以上経験していること
・細胞診断を1000件以上経験していること
・論文または学会発表していること    等々

この経験を乗り越えてはじめて、専門医試験を受験することができます!

★ひたすら診断するテスト

試験の形式も分野により異なります。病理専門医試験は2日間にわけて、トータル6時間以上かけて行われます。試験の内容はとてもシンプルで、「病理診断をせよ」です。1時間で20-30例の診断を行う試験4つに加えて、2時間半かけて病理解剖の診断を行う試験、さらに面接試験が行われます。

おしゃべり病理医・小倉先生が受験した時代は、ガラススライド標本を5分間隔で、順々にお隣に回しながら行う鏡検試験(顕微鏡で観察し病気を診断する)もあったようです。今は試験の方法も進化し、バーチャルスライドという、あたかも顕微鏡でみているかのように、病理標本の画像をパソコン上でみることのできる技術を使って試験を行います。顕微鏡の代わりに1人1台パソコンが配られ、その画像をみながら診断をしていきます。一方で、解答方法は大学入試のように紙に書き込んでいくスタイルです。日常業務では電子カルテを使っていて手で書くことが殆どないので、難しい病気の名前「尋常性疣贅」「脂漏性角化症」など(いずれも皮膚疾患の名前ですが漢字が難しいものが多いのです!)漢字練習をして臨みました。

★緊張との戦い

専門医試験という一生に一回の特殊な状況で、どうやって緊張と戦うかが、私の課題でした。試験中は問題文を読み飛ばさないよう一問一問解く前に深呼吸をしたり、休憩時間には大好きなチョコレートをつまんだり、トイレに行くときに大股で歩いて体の動きをほぐしたり、トイレの鏡の前で無理にでもニコッと口角をあげて笑顔にしたり…まさに大学受験を思い出す2日間でした。

先日無事に合格通知を頂き、ほっとしながらこのコラムを書いています。しかし、病理医としては専門医になったこれからが新たなスタートなので、改めて気合いをいれています。読者のみなさんにも、これから試験に臨む方がいると思います。これまでの努力が発揮されるようお祈りしています。緊張したときにはしんしん流緊張のほぐし方を試してみてください!

参考URL:

一般社団法人 日本専門医機構一般社団法人 日本専門医機構 (jmsb.or.jp)

投稿者プロフィール

發知 詩織
發知 詩織
全方位に目があるんじゃないかという細やかな気配りのできる逸材。寛大で誠実、緻密な仕事ができるのに人に優しい。病理医とSTEAM教育研究者の二足の草鞋を履くお母さん。愛くるしいパンダに似ているのであだ名は「しんしん」。