おしゃべり病理医スタンプ図鑑
おしゃべり病理医スタンプ図鑑 COLUMN
2024.10.24
2024.10.24
おなかいっぱい、泡立つ細胞?
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食欲の秋ですね。ハロウィンも近く、かぼちゃや栗のスイーツもたくさんお店に出ています。モンブランが好きなひとも多いのではないでしょうか。食べたいものを食べたいだけ食べていると体重が気になってきますが、みなさんのカラダの中にもお腹いっぱいのふくよかな細胞たちがいるようです。

◆おなかが泡だらけ?

食べることを専門にしている細胞たちがいます。大食細胞と呼ばれる細胞です。英語では「マクロファージ (macrophage)」、日本語と意味は同じで、「macro-大きい、phage-食細胞」の意味です。マクロファージは、「おつかれさまくろふぁーじ」のコラムでもご紹介していますが、主に基本的にはからだの中の余分なものや異物を食べて消化して排泄する、というお掃除の仕事をしています。また、お掃除がてら、カラダに侵入してきた病原体を素早く察知する免疫細胞のお役目も担っています。

その中でもあぶらっこいものばかりを食べた細胞を特に「泡沫細胞 (foamy macrophage) 」と呼びます。顕微鏡でみると、細胞質に取り込まれた脂のつぶつぶが泡ぶくのように見えるため、そのように呼ばれるようになりました。まさに今回の細胞スタンプのイラストのように、細胞質が泡立ってみえます。

◆酸化したあぶらを食べてワルモノに

この泡沫細胞、いったいどういうところに出現するかというと、もちろん、あぶらが多いところです。いちばんよく見かける場所の代表例は、血管の壁。特に動脈硬化をきたした血管の壁の中には、泡沫細胞くんたちが群れをなして集まっている様子が観察されます。

生活習慣病の中でも「脂質代謝異常症」という病気があります。俗に高脂血症と呼ばれています。この病気は動脈硬化のリスクといわれていますが、なぜ、あぶらが多いと動脈が硬くなってしまうのでしょうか。

若いころは、弾力があって圧力に耐えられる健全な状態で保たれていた動脈も、老化に伴い、血流が渦を巻くような血管の分岐部や曲がった部分で血管を裏側を覆う「内皮細胞(ないひさいぼう)」が傷ついていきます。傷ついた穴の部分から、血液に含まれるあぶら(よく悪玉コレステロールと呼ばれる「LDL」というリポ蛋白質です)や白血球などが血管の壁の中に侵入してしまいます。これが動脈硬化のはじまりです。

壁の中に入り込んだ血液中のLDLは、酸化してしまいます。酸化とは錆びつくことです。マクロファージは酸化LDLを異物とみなして、一生懸命、むしゃむしゃ食べた結果、泡沫細胞になります。酸化したあぶらを食べた泡沫細胞や他の白血球あるいは血小板からは、様々な物質が放出され(まさに臭いゲップを吐くかのように!)、血管の壁を次第に厚くて硬い状態へと変化させてしまいます。これが動脈硬化、特にあぶらまみれのべたべたした状態になるため、「粥状硬化(じゅくじょうこうか)」とも呼ばれます。

医学部3年生の病理実習用の組織イラスト。彼らもほぼ病気については素人に近いため、顕微鏡で実際の血管を眺めても、説明がないといったい何を自分が見ているのかわからないこともしばしば。そのため、実習の前のプチ講義で、動脈硬化のプロセスをイラストで簡単に説明することにしています

動脈硬化がどんどん進行すると、壁が硬くてもろくなり、瘤のように血管が膨らんだり、内腔がつまったりという状態になります。動脈瘤や心筋梗塞は、動脈硬化が原因であることが大半です。

ふっくらおでぶちゃんの泡沫細胞をみたら、生活習慣病を疑う。見た目はかわいい細胞なんですけどね。

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おしゃべり病理医スタンプ図鑑 | MEdit Lab – Part 2

投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。