「韓国ドラマを見たのですが、妊娠したかどうかって脈でわかるのですか?」と聞かれることがあります。その答えは、Yesでもあるし、Noでもあります。
通常、妊娠しているかどうかは妊娠検査薬によって判断します。正しい診断のための検査は必要不可欠です。西洋医学は、医師による診察を大切にしながらも、誰もが理解できることを目指して、様々な検査方法を発展させてきました。一方、東洋医学では検査はなく、診察方法は昔から大きな変化はありません。五感をフル動員しながら見て、聞いて、感じていきます。
特に、医師の技量が問われるのが脈に触れる「脈診」です。脈診では、手の付け根の親指側に位置する橈骨(とうこつ)動脈から、茎状(けいじょう)突起を中心に左右3箇所ずつ触れていきます。計6箇所の診察部位を軽くあるいは深く触れながら、脈を診ていきます。脈の各部位は五臓六腑とそれぞれ対応しており、脈という超部分から身体全体の様子を推し量ることができるのです。その他の診察の所見と合わせながら治療方針の決め手として脈を活用していきます。
脈診では、なんと、妊娠に気づくこともできます!奥さんの異変を感じ取ったときのあのドキドキは忘れもしません。これは普段の脈を知っていることが前提で、脈の変化に気づくことが大切です。
妊娠すると「滑脈(かつみゃく)」という脈になります。指先で、橈骨動脈の一点に触れていくと、一瞬で玉が転がるように脈が足早に走り去っていきます。滑脈の反対は、「濇脈(しょくみゃく)」です。ぬるっとゆっくりとした脈を触れます。普段のわたしたちの脈は、何か病的なものが隠れていないと、滑脈にはなりません。奥さんの脈が、滑脈に変わったことに気づいたとき、本の数ミリの指先の感覚がとんでもなく大きく感じられました。まるでお腹にいる赤ちゃんの鼓動が直接こちらに伝わってくるような感動的な体験でした。
身近な脈からもいろんな情報を読み取れるってすごいですよね。わたしは、東西に関わらず熟練者にしかわからない診察の技術に憧れを持ってきました。少しでも先達に近づくべく研鑽しています。みなさんも、まずは自分の脈を普段から触ってみて自分の身体の声に耳を澄ましてみませんか。
投稿者プロフィール
- 生まれも育ちも石川県。地域医療に情熱を燃やす若き総合診療医。中国医学にも詳しく、趣味は神社巡りとマルチな好奇心が原動力。東西を結ぶ“エディットドクター”になるべく、編集工学者、松岡正剛氏に師事(髭はまだ早いぞと松岡さんに諭されている)。
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