ミカタの東洋医学
ミカタの東洋医学 COLUMN
2025.01.09
2025.01.09
東洋医学は産後ママの味方!
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赤ちゃんが生まれて幸せなはずなのに、なんだかつらい…

外来にいらっしゃるママさんの中で、こんな悩みをつぶやく方が少なからずいます。2~3時間おきの授乳、夜泣きで眠れない日々、疲れているのに休めない。「育休」という制度ができて、お母さんの体を大切にできる時代になったはずなのに、産後の体調不良に悩むママたちは今でもたくさんいらっしゃるのですね。

◆東西の産後ケア観:「坐月子」と「産褥期」

中国には「坐月子(ずおゆえず)」という習慣があります。日本語でいう「産後の肥立ち」のことなんですが、出産後の30日から100日くらいの間、しっかり休養をとって栄養をつけることを大切にしています。特に帝王切開をした後や体力が落ちている場合は、3ヶ月半から半年くらいかけてじっくり回復を目指すこともあります。

一方、西洋医学でも同様の考え方があり、出産後の6~8週間を「産褥期(さんじょくき)」と呼んで、特に大切な時期だと考えています。この期間に、赤ちゃんを育てていた子宮が元の大きさに戻り、出産で傷ついた場所が治り、母乳の出る量も安定していきます。

◆東洋医学の「補う」という方法

法律で決められた産後休業(8週間)や育児休業をしっかり取れても、なかなか疲れが取れなかったり体調が戻らなかったりする方が時折私の外来にやってくることがあります。

東洋医学では、そんなお母さんたち一人ひとりの状態に合わせて対応していきます。ここで大切になるのが「気血(きけつ)」という考え方。「気」は体を温めたり動かしたり守ったりする生命エネルギーで、「血」は体を潤して養う体液のことです。妊娠・出産、そしてその後の授乳や子育てでは、この両方がすごく使われてしまうのです。出産時の出血で「血」が減り、陣痛から出産までの大変な営みで「気」も使い果たしてしまいます。さらに、授乳期は母乳を作るために「気血」を使い続けることになります。

この「気血」が足りなくなると、人によって色々な症状が出てきます。すごく疲れやすくなる人もいれば、冷えやめまいに悩む人も。不眠や不安を感じる人もいます。西洋医学が検査の数値をもとに異常を見つけて治す方向性なのに対して、東洋医学ではこうした一人ひとりの状態に合わせて「気血」を補い、失われた体力を積極的に回復させていこうとするのです。

◆現代社会における産後ケアの実践

今の時代、産後の過ごし方は人それぞれです。育休をたっぷり取ってゆっくり休みたい人もいれば、仕事も大切にしたいから早めに復帰したい人もいます。どちらの選択も素晴らしいものですが、特に早く仕事に戻りたい方は、東洋医学のアプローチを産後初期から試してみるのは有益でしょう。

漢方薬や鍼灸といった治療だけではなく、温かい食事をしっかり取る、十分な休息を確保する、体を冷やさないようにするといった東洋医学の知恵は、今の時代にもしっかりと役立ちます。育休制度が整備されても、その期間だけでは体の回復が追いつかないこともある中で、西洋医学の正確な診断・治療と、東洋医学の体力回復の考え方を組み合わせることで、新しい命を育みながら、自分の心と体のバランスも保てる、そんな産後ケアの形を作っていけると信じています。

 

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投稿者プロフィール

華岡 晃生
華岡 晃生
生まれも育ちも石川県。地域医療に情熱を燃やす若き総合診療医。中国医学にも詳しく、趣味は神社巡りとマルチな好奇心が原動力。東西を結ぶ“エディットドクター”になるべく、編集工学者、松岡正剛氏に師事(髭はまだ早いぞと松岡さんに諭されている)。