今年度は、病理診断を疑似体験できるカードゲーム『バナオーマ』を制作し、MEdit授業で訪れた各学校の生徒さんとともにゲームを楽しんできたおしゃべり病理医としんしん。ゲーム作家の米光一成さんにも「バナオーマは、完成度が高いし、面白いし、これ以上いじらない方がいいですよ」とお褒めをいただき気を良くしたわたしたちは、現在、来年度の高大連携授業や今後の学部間の多職種連携授業で活用できるゲーム「ENT! 」を絶賛制作中です。
ゲームデザインで重要になってくるのは、テストプレイ。今回は、バナオーマ制作時以上にこのテストプレイの重要性を痛感しています。
◆患者の治療を邪魔ばかりする病院…?!
先日のMEditカフェには、医学部の学生4名、高校生2名、私たち含めておとなが5名と総勢11名が集まり、その大部分を「ENT! 」のテストプレイに費やしました。
「ENT! 」は、様々な患者さんに必要な医療職種をいち早く集めた人が勝ちとなるゲームで、「ENT! 」は、医療業界用語で、「退院」を意味します。
医療についてほとんど知らないという方も多かったため、ふたり一組でチームを組んでスタート。
ほどなくして、「新生児黄疸という病気にかかっている赤ちゃん」という患者カードを引き、その赤ちゃんの治療に必要な医療職種を何とか集めようと頑張っているチームの石神さんが、こうつぶやきます。
「僕の担当の赤ちゃん、ぜんぜん、治療が進まない!」
「え~?うちの管理栄養士、取られちゃうの?」
完全にドクターの気分になっている石神さん。ゲームがなかなか進行せずに赤ちゃんの治療が遅れることに気をもんでいます。
ゲームがとりあえず一区切りしたところで、プレイの感想を話し合いました。
「みんなで足を引っ張り合って、患者の治療が進まないゲームになっているんだけど、多職種連携を学ぶゲームだとしたら、そういう形は好ましくないのではないか?」
もっともな意見でした。シリアスゲーム、つまり、何かの知識を得るためのゲームは、やはり現実の縮尺版である必要もあって、患者さんを救うべく様々な医療職が連携していくことを学ぶゲームであるにもかかわらず、お互い医療スタッフを取り合ったりして、邪魔ばかりをするゲームはなんとなく気分が悪いものです。
ハッとさせられました。今までゲームの面白さを優先させるため、プレイヤーがすんなりゴールに行かないための「邪魔要素」ばかりを考えてルールを作ってきたことに気づかされたのでした。
このように、テストプレイは、実際にプレイすることでゲームの進行、その時のプレイヤーの気持ちや行動パターンなどをシミュレーションできるもので、ゲーム作りには欠かせないプロセスなのです。
◆医療にかかわる職種、いくつ知ってる?
さて、みなさんは、医療にかかわる職種をいくつ知っていますか?(ちょっと先を読まずに頭に思い浮かべてみてください)
医師、看護師、薬剤師・・・。この3つの職種はすんなり出てくるかと思うのですが、それ以上はなかなか出てこないという方も多いのではないでしょうか。実際、小さなクリニックでは、受付の事務さんと看護師さんと医師で診療が行われているところも少なくありませんので、いざ大きな病院に行った際、多少ユニフォームが違っても、みんなお医者さん、あるいは看護師さんに見えるぞ、という状況ではないかと思います。
国家資格を有する主な医療スタッフは、上記の3つの職種以外にもざっと、臨床検査技師、診療放射線技師、臨床工学技士、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、そして社会福祉士とたくさんあります。
診療計画を立てて、実際患者さんの病気の治療を主に担当するのは医師であり、医師は業務独占といって医師法でほぼすべての医療行為が許される職種ですが、医師が何から何までできるわけではなく、それぞれ専門に特化した医療スタッフがいて、チームで協力しながらひとりの患者さんの診療にあたることが常です。
ドラマでは、スーパーマンのようなひとりの主人公(たいがい医師)が何もかもやっているように描かれることが少なくありませんが、それはマンガの世界であって、どれだけチームで協力し合えるかどうかが良い診療を行えるかどうかの大事なポイントになります。
◆多職種連携授業ってなんだ?
残念ながら、医療従事者を志して入学してきた順天堂の大学生たちも、多職種に対する理解と知識は一般の方々とほとんど変わりません。自分が志す専門職以外にどんな仕事があるのかほとんど知らないのが現状です。
そこで、文部科学省では、医療系学部に対して、多職種連携(つまりチーム医療のこと)について学生が理解できるカリキュラムを考案し、実施するように通達を出しており(これを「医学教育モデル・コア・カリキュラム」といいます)、順天堂もそれを受けて多職種連携授業を多学部の教員が集まって考えています。
その授業で「ENT! 」を活用できるよう、私たちの試行錯誤は続きます。
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投稿者プロフィール
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- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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