ふしぎな医学単語帳
ふしぎな医学単語帳 COLUMN
2025.02.06
2025.02.06
静止画か動画か? 乳がん検査「マンモグラフィー」と「超音波検査」
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おしゃべり病理医としんしんが所属する順天堂大学練馬病院は、練馬区で唯一の「東京都がん診療連携拠点病院」であり、がんの患者さんがたくさんおられます。特に、肺がん、乳がん、前立腺がんの患者さんがかなり多く、病理診断業務においてもこの3つのがんの病理診断が大きなウエイトを占めています。それぞれのがんの検査や診断、そして治療の特徴については順々にご説明したいと思いますが、今日は、乳がんの検査についてお話しましょう!

◆若いひとがなることも多い乳がん

がんは、基本的に高齢になるとかかりやすい病気ですが、乳がんは比較的若い方も注意が必要ながんで、40代で発症される方もかなり多く、練馬病院では20代や30代の患者さんもわずかですがおられます。

ですから、1カ月に1回くらい、女性の場合は月経が終わったあとくらい(乳房の張りが弱いとき)に、お風呂に入りながらなど、自分の乳房を触ってしこりがないかどうか、確認することをお勧めします。乳がんは、ひとによって悪性度が大きく異なるがんで、おとなしいがんも少なくないありません。いずれにしても早期発見できれば完治できるがんですから、もしも少しでも気になる部分があったら、躊躇せずに乳腺外科を受診することが大切です。

◆なるべくうす~くがキモのマンモグラフィー検査

40歳になったら、2年に1回は定期検診を受けましょう!検診は、主に、マンモグラフィーと超音波検査の二種類があります。

「マンモグラフィー mammography」 は、X線で乳房 “マンモ mammo-” を撮影 “ グラフィー -graphy” する検査です。X線といえば、胸のレントゲン検査などが連想されると思いますが、その乳房バージョン。しこり以外に、がんに伴って乳管というミクロの管の中にできた石灰化(カタい塊のようなもの)もよく観察でき、ごく早期のがんも検出しやすいという利点があります。

ただ、マンモグラフィーには欠点がいくつかあります。まず、とにかく痛いこと。

マンモグラフィーで小さな病変を見落とさないためには、乳房の厚みをなくして撮影することが大切で、そのため、特殊な機械で乳房を上下あるいは斜め方向からぎゅ~っとはさみ、できるかぎり薄く平たくした状態で撮影するのです。

この撮影方法がつらい。痛い。おしゃべり病理医は、何度かマンモグラフィー検査を受けたことがありますが、乳房が挟まれる十数秒、おせんべいのように広がった自分の乳房を驚きを持って見つめながら、痛くてじたばたしそうになるのを耐えました。もうすぐ2年経つし、そろそろ受けなくちゃと思うと、ちょっと憂うつになります。

もうひとつの欠点は、この薄くする撮影方法と関係があるのですが、もともと日本女性の乳房は支持組織が厚くて硬いことが多く、乳房の伸びが悪いのです。こういった乳房を「dense breast (デンスブレスト:高濃度乳房)」と呼ぶのですが、痛いし、撮影しても乳房が厚いために病変が見えづらく、マンモグラフィー検査にはあまり適していないと言われています。

◆マンモグラフィーか?超音波検査か?

そんなマンモグラフィーの欠点を補う検査が、「超音波検査(エコー検査)」です。こちらはX線を使いませんから、被爆の心配もなく、痛みもなく、身体に優しい検査といえます。また、支持組織が厚くてマンモグラフィーでは見えづらいdense breastであっても病変が見やすい方法です。

ただ、検査する方の熟練度に応じて、検査の質がかなり異なるというのが欠点といえます。超音波検査はゲルをつけた端子を乳房の上で転がすように動かしながら観察していきます。マンモグラフィーは静止画であとでじーっくり観察できる一方で、超音波検査は、動的な検査ともいえ、端子を動かしながら観察者が「これなんだろうな?がんかもしれないな…」などと考えながら、検査を進めていくため、この観察手法には経験と知識が不可欠なのです。検査時間もマンモグラフィーよりも長くかかります。

ちなみに、マンモグラフィーを撮影するのは、放射線技師さん、読影、つまり診断するのは放射線科医あるいは乳腺外科医。一方、超音波検査を行うのは、臨床検査技師さんあるいは放射線科医や乳腺外科医です(この様々な職種がかかわっているチーム医療のことは、また別の機会でお話しますねー!)。

ですので、マンモグラフィーと超音波検査、どちらもセットで行うとそれぞれの欠点を補いあって、検査の精度も高くなるといえます。通常の定期検診では、マンモグラフィーが採用されており、異常があった場合は、超音波検査やその他の検査が追加されるという流れが一般的ともいわれていますが、心配でしたら、乳腺外科を受診し、ドクターに相談すると良いでしょう。乳腺外科医が超音波検査を行う場合は、がんかもしれないと思った部分に針を刺して組織を採取し、すぐに病理検査に出すこともできます。

◆男性も乳がんになりますよー!

さて、ここまで書いてきて、「俺には関係ないなー」と思っていた男性諸君には、声を大にして言いたい。男性も乳がんになります。男性乳がんは、乳がん全体の1%。練馬病院でも1年間にだいたい5名くらいの男性乳がん患者さんがおられます。

男性は、乳腺が女性に比べて発達が悪く、乳首の真下だけに存在していることが少なくありません。そのため、がんができやすい場所も乳首の真下です。男性は自分が乳がんになるはずがないと思っている場合が多く、かつ、見つけにくい場所にがんができやすいことから、発見が遅れ、進行がんになりやすい特徴があります。

女性でも乳首の真下にできたがんは見つけにくいとされており、時々、乳首の真下にしこりができていないかチェックすることは、男性にとっても女性にとっても大切です。また、乳首から血の混じった分泌物などが出てきた場合も、要注意。乳腺外科で検査を受けましょう!

 

◆参考URL

がん診療連携拠点病院|各種病院の概要|東京都がんポータルサイト あなたに、まっすぐ。

乳がん検診について:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]

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投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。