文系ウメ子ちゃんねる
文系ウメ子ちゃんねる COLUMN
2023.08.24
2023.08.24
【家が図書館】山本貴光先生ってどんな人? 読んで学べるゲーム本3選
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情報解禁です! 8月26日(土)、MEdit Labリアルワークショップ第2回にあの山本貴光先生がふたたびご参加くださいます! ゲーム作家で文筆家の山本貴光先生。第1回ではレクチャーをしていただき、「ゲームとは失敗を楽しむもの」という名言が参加者の胸に刻まれました。

山本先生は『戦国無双』などのゲームを開発したゲーム・クリエイター。であると同時に、文筆家としてもご活躍。共著や翻訳もあわせると30タイトル以上の本を手がけておられます。そして、そのご自宅は5万冊以上の本にあふれ、〈森の図書館〉と呼ばれるほどの愛書家でもあります。
雑誌BRUTUSでも取材されたほど魅力的なライブラリー。その姿をMedit Lab読者のみなさまにもぜひ見ていただきたい。山本先生にお写真をおねだりしてみました。届いたのはこちらです。

どうですか。本好きは「図書館に住みたい」という夢を抱いたことが一度はあるでしょう。その夢を壮大に叶えたようなお家。山本先生は「家のほとんどは本。本がないわずかなスペースを人間が間借りして暮らしているかんじ」と軽やかに笑っておられました。

山本先生の単著のなかに『マルジナリアでつかまえて』という一冊があります。マルジナリアとは、ラテン語由来の英語で、本のマージン(余白)に書き込みをしたものを指します。山本先生は、左手に本、右手にペンを持つのが基本の読書スタイルとしてもつ「マルジナリアン」なのです。
……もうおわかりですね。MEditLabワークショップの見取り図にて山本先生のコーナーを「マルジナリア図書館」と名付けたのには、このような背景があったのです。

ゲームをつくるのも遊ぶのも、本を書くのも読むのも好きな山本先生。その山本先生の本のなかから、MEdit Lab読者のみなさんにオススメしたい3冊を選びました! 夏の終わりに、みんなで「マルジナリア」へ出かけましょう。

 

ウメ子が勧めるこの3冊

■ゲームづくりへ向かわんとするあなたへ
『ゲームの教科書』馬場保仁/山本貴光著(ちくまプリマー新書)

私たちは、ゲームで遊ぶことには慣れています。けれど、そのゲームがどのように作られたか、裏側のプロセスはなかなか想像しないものです。この本では、実際にゲーム制作に携わっていた山本貴光さんと馬場保仁さんが、プロ目線で「ゲームのレシピ」を明かしてくだった秘伝の一冊。中学生以上ならすいすい読める語り口で、でも中身はみっちり。

とにかくリアルな赤裸々な話がいっぱい。ゲームも開発中、どんどんゲーム・クリエイターの睡眠時間が削られて社内に泊まる様子など(!)がつぶさに語られ、ゲーム業界に興味のある方はまず参考にしたい。さらに、Medit Labワークショップ参加者には見逃せない内容がたっぷり。第4章はなんと「1ヵ月でゲームを作ろう!」。第1日から第20日まで、ゲームづくりのための工程が20ステップに刻まれているのです。

平日の5日間、コツコツと手と頭を動かせば、きっかり1ヵ月でゲームができちゃうという次第です。前半だけを眺めてみると、コンセプト・イメージ作成(1日目)、ゲーム・ジャンルの確定(2日目)から始まり、コンセプトを実現するためのゲーム・システム考察(7日目)、そして企画書にまとめる(10日目)。

MEditLabワークショップでも、おおむねこの手順で進みます。ですが、時間内にすべてが完成しないこともあるでしょう。ワークショップ第2回と第3回のあいだに、この本を手に構想を進めておくと手応えのあるゲームができるはずです。

 

■ゲームと読書が好きなあなたへ
『投壜通信』山本貴光(本の雑誌社)

ゲームづくりの本といえば、もう1冊、いや4冊、オススメしたいものがあるんです。それが『ルールズ・オブ・プレイ ゲームデザインの基礎』ケイティ・サレン&エリック・ジマーマン著(※上下巻本はソフトバンククリエイティブから、4冊セットはニューゲームズオーダーから出版)。山本貴光さんが翻訳を手がけておられます。MeditLab主宰のおしゃべり病理医がワークショップを組み立てるにあたって、おおいに参考にしたネタ本です。(ワークショップづくりの裏話はこちらから)

▲第1回ワークショップでは、会場に4冊の『ルールズ・オブ・プレイ』が飾られていました。(撮影:後藤由加里)

この本は、ゲームづくりの手順にとどまらず、「どうして人がゲームで遊ぶのか」といった深層の問題まで掘り下げています。人類とって「ゲームという文化」はいかなる意味をもつのか。そこまで徹底的に考察するゲームづくりにおけるバイブルのような本。

……なのですが、扱うテーマが広大深淵であるために、ページ数もとんでもないのです。ウメ子宅には上下刊2冊ありますが、あわせて1300ページ超。なかなか、読むのに気合がいるなと思っていたのですが。

訳者の山本貴光さんが、この本の攻略法をまとめてくださっているのです。それを発見したときの喜びといったら。「ルールズ・オブ・プレイ攻略法」が収録されているのが、漆黒の表紙が印象的な『投壜通信』。50ページ程度の掌編に、ルールズ・オブ・プレイのエッセンスが凝縮されているだけでなく、ルールズ・オブ・プレイを念頭においたときの「本の読み方」まで書かれているのです。

ウメ子的にぐっときたのが「読書は育成ゲームである」という考え方。本とゲームを重ねているのです。たとえば、山本さんは「本に問いを投げかける」という方法を紹介しています。たとえば、長大な『ルールズ・オブ・プレイ』を読むときも、頭から一言一句読もうとするのではなく「ゲームとは何か?」「おもしろいゲームとつまらないゲームの違いは?」など、なにか問いを立てて読んでみる。すると、不思議なことに、そのヒントになるような文字列がパッと目に飛び込んでくる。

ゲームは、プレイヤーとのインタラクションがあるからおもしろいわけですよね。たとえば、プレイヤーがどんな操作をしようとも同じ反応を返すようなゲームだったら、それはまったくつまらない。ゲームとプレイヤーのあいだのダイナミックなやりとりが愉快なわけです。
本だってそれと同じ。本というひとつのシステムに読み手が分け入っていくことで、あなたのあいだに「読書」という体験が生まれるわけです。『投壜通信』は、「ゲーム的読書」を教わりつつ、『ルールズ・オブ・プレイ』攻略法まで手に入れられる貴重な書です。(そのうえ、山本さんのご自宅〈森の図書館〉にはどんな本が日々押し寄せてくるのか、その蔵書の一部も知ることができます)

■読書が好きなあなたへ
『文体の科学』山本貴光(新潮社)

オススメどころが多すぎて、だいぶ長くなってしまったのですが、もう一冊ねじこみます。文系ウメ子としては、どうしても『文体の科学』のすばらしさをお伝えせねばなりません。山本貴光さんの大ファンで、サイン本を額にいれて飾る友人MKに、ウメ子がさいしょに教えてもらったのがこの本でした。

文体科学する。奇妙なタイトルですよね。でも読めば意味がわかります。「文章」といっても、それぞれにスタイルがあります。友達にLINEするときの文章と、大学へ提出する入学願書の文章、あるいは何かの契約書の文章は、内容だけでなく「文体」が違いますよね。願書に絵文字は使わない。「甲が乙に」なんて言いまわしは契約書でしか見たことがない。

じゃあ、どうして法律の文章は、一見わかりにくいのか。辞書にはなぜ、体言止めが多いのか。図鑑はなにゆえに、動物や植物のパーツに注目するのか。さまざまな「文体」がなぜそのような文体になったのか、ハンムラビ法典や古代ギリシアの書物から御成敗式目まで歴史を遡りながらその成り立ちを観察していくのがこの本です。

 

ということで、ゲームと読書について学ぶ3冊をご紹介してきました。みなさんは、どの本が気になりましたか。
第1回ワークショップでは、山本貴光先生の著作を持参して、サインをねだったファンもいたとか。ワークショップ参加者のみなさんは、ぜひ気になる1冊を携えて、山本先生にあれやこれやを尋ねてみてください。第2回以降は、山本先生からじきじきにゲーム・コンセプトへのコメントもいただける予定です。

写真提供:山本貴光
書影撮影:梅澤奈央

投稿者プロフィール

梅澤奈央
梅澤奈央
聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。